美少女暗黒騎士、王都へ走る

 勇者様、怒ってるかな……でも、困ってる人たちを放っておくなんてこと、どうしても出来ない……。

 

 魔王は勇者様じゃないと倒せないけど、私にだって何か出来ることがあるはず。

 既に王国の領土内に入った私は、さらに王都へと続く街道を走りながらそんなことを考えていた。


 体力の続く限りずっと走って来たから、王都にはもうすぐ着くはず。


 ここに来るまでにも魔王の軍勢らしきものはちらほらいた。

 もしかしたら、王都も既に危ないかもしれない。急がなきゃ……!


 ようやく王都に到着すると、そこは地獄絵図だった。

 思った通りに大量のモンスターが侵入していて、人々は好き嫌いに関わらず強制的に担々麺ニボニボ塩風味を食べさせられている。


「ケッケッケェ!これが我らの魔王様のお味だぁ!食べな食べなぁ!」


 街のあちこちから「もう食べられねえ」「味がやばすぎる」「意外とイケる!」と言った声が聞こえてきた。


 ひどい……!

 中には担々麺やニボニボが苦手な人だっているかもしれないのに!


 やがて同じように担々麺ニボニボ塩風味を食べさせられている兵士を見つけた。


「『ブラックランス』!!」

「ギョエーッ!!」


 モンスターを倒して、気分が悪そうに仰向けに倒れている兵士に声をかける。


「大丈夫ですか!?状況はわかりますか!?」

「う……助かった……だが俺はもうだめだ……それよりも、王様のところに行って王様を、お守り、して……くれ……ぐふっ」

「兵士のおじさん!しっかりしてください!ぐふってなんなんですか!?」


 身体から力が抜け、安らかな表情のおじさんを見て私は全てを悟ってしまう。

 この人、ラーメンを食べさせられ過ぎてお腹を壊して、その、ここで……。


 私は兵士のおじさんからささっと離れ、鼻をつまみながら王城に向かった。




 王城について玉座の間へ到着すると、そこでは魔王らしき人と王様が対峙していて、その間で王様を庇うように一人の見慣れない男の人が立っていた。


 私は、とりあえず物陰に隠れて様子を窺うことにする。


「くっ……どういうことなのじゃ!あのアディに出来て、このレオナルド君に魔王を討伐出来ないわけがなかろう!」

「ふふふ、王様さすがねえ、何であの最低なアディが勇者に選ばれたのかを知らないなんて……どうせその辺の役人に選んで連れて来させたんでしょ?」

「どういうことだ……?」

「私たちは元々は魔王じゃなくて、味噌ラーメン醤油味様と契約することによって初めて魔王になり、いくらかの力を授かるの。その内の一つが、さっきそこの坊やにかけた『かなりすごい封印』って技。これはね、この技をかけた人の魔法も技も全て封印してしまうのよ。つまり、今の坊やは通常攻撃しか使えないってわけ」

「何じゃと……?」

「だからね、アディのように素の攻撃力が異常に高くて、しかも通常攻撃が全てクリティカルヒットになるとかいう人間でもない限り、私たち魔王には傷一つつけることすら出来ないのよ」

「ぬう……別に誰も聞いてないのに、何て丁寧でわかりやすい説明なんじゃ!」


 その時、それまで黙っていたレオナルドと呼ばれた男の人が喋り出した。


「くっ……嘘だ……あのクズに出来て僕に出来ないわけがない!行くぞ魔王!聖なる剣技『ホーリースラッシュ』!!」


 レオナルドさんがそう叫びながら魔王を切りつけるも、剣からは特に特別な力が出たりはしない。


 部屋には魔王が腕で剣を受けた乾いた音だけが高く響き渡った。


「ふふふ、かっこいい技ね……」

「なっ……やっぱり出ない……そして僕の攻撃も本当に全く効いてない……」

「さて、そろそろいいでしょう。王様、あなたには消えてもらうわ」

「待て、何でわしなんじゃ!魔王にとってもっと他に倒すべき相手がいるのではないか!?」

「いないわ!少なくとも私にとってはね……。いいわ、教えてあげる。お金や財宝以外に関心のないあなたは知らないでしょうけど、私は魔王になる前はこの王城で働いていたのよ」

「何じゃと……」

「あなたが王様になってからというもの、度重なる増税と圧政で民は貧困に喘ぎ苦しんだ。しかも反抗しようとした民を、兵士を使って秘密裏に処罰するなど外道とも言える行いをしていた一方で、あなたの王城での暮らしは贅沢を極めた……それを見ていた私たちが何も思わないわけがないでしょう」


 そんな……王様は実はとても悪い王様で、魔王はこの国を救う為に王様を倒そうとしているってことなの……?


「大体、危険を承知でアディを追い出したのも、彼に支給していた金や美女を自分のものにする為じゃないのかしら?」

「ううう、うるさいうるさい!レオナルド!何をしておる!早くやってしまえ!」

「くっ……うおおおお!」


 レオナルドさんは、無謀にもまた剣を構えて魔王に向かって駆け出す。

 その時だった。


「待ったーーーーーっ!!!」


 私の後ろから、聞き覚えのある大好きな人の声。

 勇者様がすごい勢いで玉座の間に入ってくると、私の横を素通りして魔王と王様の間くらいに立った。


「ア、アディ!来てくれたのか!助かった……褒美なら後でいくらでも授ける!さあ魔王を倒してくれ!」


 地獄で仏を見た様な顔の王様。

 対照的に魔王は顔を引きつらせ、


「くっ……どうしてアディが来るのかしら……これは分が悪いわね……」


 そう言って必死に思索を巡らせている。


「くくく……間に合ったか!さあ、今すぐ助けてやるぞ!」


 剣を鞘から引き抜く勇者様。いけない……!

 私は思わず物陰から飛び出した。


「待ってください勇者様!その魔王は……!」


 だめ、間に合わない……!

 勇者様は嬉々として剣を振りかぶり、


「『それはもうすごめの通常攻撃!』」

「しゅごいいいいいいいいいいいい!!」




 レオナルドさんを倒してしまった。


 ええっ……。

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