金髪碧眼の美女、勇者に助けを求める

 それから数日後、俺たちはスーパーデラックスボンバードラゴンとやらの討伐に向かった。もちろん倒した報酬として受付のお姉さんを口説くためだ。


 リリスは「ドラゴンの脅威に怯える人々をまた救いに行くんですね!さすがは勇者様です!」とか言って鼻息を荒くしていたけど、敢えて誤解を解く必要もないだろうと思い放置している。


 今はドラゴンを討伐し終わって早速お姉さんを口説いているところ。


「よう、約束通りドラゴンを倒してきたぜ。これで一杯付き合ってくれるよな?」

「私もそうしたいのは山々なんですけど、どうしても今夜は空いてなくて……その代わりと言ってはなんですが、私のお友達と飲んでもらうなんてのはどうですか?アディさんのファンだから飛んで来ると思いますよ」

「かわいいのか?」

「もちろん!」

「しょうがねえな……それで手を打とう」


 交渉が成立すると、俺はギルドとの併設になっている酒場で待機させていたリリスのところに戻った。


「勇者様、依頼達成報告は終わりましたか?」

「ああ、何事もなくな。報酬はまた明日でもいいだろ」

「それじゃまたお金も入ることですし、今夜はパーッと行きましょう!」


 ギルドからの帰り道に豪華な食材を買い、それらをふんだんに使った料理で彩られた食卓にて、俺とリリスは無双する。


 それに。この後俺には夜の無双タイムも待っているんだ。たくさん食べて体力をつけておかないとな!はっはっは!


 リリスが寝静まったのを見計らって家を出て、約束の時間までその辺で暇を潰した後、俺は待ち合わせのバーに向かった。


 扉を開くと軽快なベルの音が鳴り響く。

 古臭いけど、田舎町にしては洒落た内装をしている店だ。


 俺はファンが待っているという奥の席へ向かう。


 しかし。




 そこにはニューハーフの方がいらっしゃった。


「あらぁ?あなたが勇者アディ様?噂通り、可愛い顔してるじゃな~い」


 俺は間違いかと思って別の席を見に行こうと踵を返した。

 でもその瞬間に尋常じゃない力で腕を掴まれてしまい、逃げられなくなってしまう。


 その後は……ニューハーフの方の無双タイムであらせられた。




 翌朝。


 無双しに行くつもりが無双されてしまうという散々な末路をたどった俺は、大切なものを失いながらも、まだリリスという汚れのない大切なものが残っている我が家へと何とか生還。


 リリスにばれないように部屋に入り、申し訳程度の睡眠を取る。

 そして朝食の時間、まだ疲れの残る身体で飯を食っていると、リリスがおずおずと話しかけて来た。


「あの、勇者様……」

「どうした?」

「昨夜はどこに行ってらしたのですか……?」


 俺は飯を噴き出した。


「い、いやただの散歩だよ。夜の街を歩くのもなかなか風情があっていいぜ?」

「そうですか……」

 

 リリスは何かを考えながら、神妙な面持ちでもそもそと朝食を食べている。

 やがて顔をあげると、


「あの、私……勇者様がどんな女の人と遊んでも構いませんので……どうか、ずっとお側に置いてくださいね……」


 そんなことを言いだした。


 どこの都合のいい女やそれ……。

 あかん……ホンマあかんってこれ……。


 本当にいい子すぎて、このままでは俺がアンデッドの如く浄化されてしまう。

 

 と、その時だった。

 突然玄関の扉が乱暴にノックされたかと思うと、俺たちの返事を待たずして勝手に扉が開き、家の中に女が飛び込んで来る。


 金髪碧眼のロングヘアー。

 背は俺より少し低いくらいで、白い神官服のようなものに身を包んでいるけど、神官服にしてはスリットなんかが入っていてやけにセクシーだ。


「あの……ここが勇者アディ様のお宅でしょうか!?」

「お、おう、そうだけど」

「好きです!」

「ええっ……」


 もはやチョロいとかいう次元すら超えて来やがった。

 初対面でいきなり告白とかどういうことだよ。


 リリスは俺と金髪女を交互に見て「遂にこういう日が来たか」……みたいな悲壮な顔をしている。いやいや全然来てませんよ。


「ちょっと落ち着いてくれよ。何がどうなってんのか、そもそもアンタが誰なのか説明して欲しいんだけど」

「こ、これは失礼を致しました……」


 とりあえずテーブルに座ってもらって落ち着くと、金髪女は一つ咳ばらいをしてから話を始める。


「申し遅れました。まず私は王国の王城で神官を務めております、マリアと申します」

「城の人間かよ。まあ、ここを知ってるとなるとそれしかないか」

「憧れの勇者様に会った興奮で思わず告白してしまい、本来の目的を完全に見失っていました……本当に申し訳ございませんでした……」


 リリスは、何だか難しい表情をして話を聞いている。


「それで、その本来の目的ってのは何なんだ?」

「はい、単刀直入に申し上げます……勇者様に、王国へと帰還していただきたいのです」

「嫌だね」


 俺の即答に、マリアどころかリリスまで固まった。


「こうなるのはわかってた。どうせ魔王が復活するとか言うんだろ?」

「は、はい……正にその通りで」

「魔王復活の噂はニート生活を送ってた俺の耳にも入るくらいあちこちで流れてたってのに、それを無視して俺を追い出したんだ。今更戻って魔王と戦えなんてのは虫が良すぎるぜ」

「それは……そうです、でも、もう勇者様じゃないとどうにも……既に担々麺ニボニボ塩風味という新たな魔王の勢力が王都の近くまで迫っていて……」

「悪いけど自分たちでどうにかしてくれ」

「…………」


 場に沈黙が流れた。

 やがてマリアは席を立って玄関のところまで歩いて振り返ると、


「今日のところは帰ります……でも私、諦めませんから……突然の訪問、大変失礼致しました……」


 そう言って去って行った。

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