勇者と暗黒騎士、ドラゴンと戦う
しばらく進むと、クエストの討伐対象になっているドラゴンの巣にたどり着く。
俺たちはドラゴンにばれないように、茂みから少しだけ顔を出して敵の様子を確認していた。
「リリス、見えるか?あれが今回のターゲットだ。まず最初に……」
「私が攻撃をぶち込めばいいんです……よね?」
「お前昨日の俺の話を聞いてたか?何でいきなりクライマックスみたいになってんだよ」
「ご、ごめんなさい……」
また少しだけリリスが落ち込んでしまったけど、今は気にしている暇はない。
「とりあえず俺が囮になるから、お前はここで相手の行動パターンを観察していてくれ。俺は攻撃を受けてもちょっとくらいじゃ何ともないから大丈夫だ。それで、相手に隙が出来たと思ったら何か攻撃を仕掛けてくれ、止めは俺が刺す」
「わかりましたっ」
かなり大雑把な作戦だけどこんなものでいい。
正直に言えば俺一人でも余裕で倒せるんだけど、リリスにも攻撃を加えさせてやらないと、後から何も出来ませんでしたとか言って落ち込みそうだからな。
「それじゃ準備はいいか?」
「はいっ!」
リリスの元気な返事を聞いてから、俺は茂みを出てドラゴンに歩み寄った。
敵は昼寝をしているところだったけど、俺に気付くとゆっくり身体を起こして俺と対峙する。
「ほう、こんなところに人間が……よく来たな。我が名はダークネスドラゴン……どうだ、かっこいい名前であろう?クックック……」
「いやそれなんだけどさ……お前、人間からめっちゃダサい名前つけられちゃってるぜ?」
「何だと……それは真か?ちなみに何と……?」
「ハイパーウルトラダイナマイトドラゴン、らしい……」
それを聞いたドラゴンはしばらく呆然とし、次第に全身を震わせ出した。
「ゆ、許せん……我を侮辱するとは……人間!ここから生きて帰れると思うな!」
「ちょっと待ってくれ、名前をつけたのは俺じゃ」
「『ダークブレス』!!!!」
ちっ、人の話を聞かないやつだ。
「『すごい防御』!!!!」
俺が目の前で両手をクロスさせて防ぐと、ブレスは霧散していく。
視界が晴れた先では、ドラゴンが驚愕にその顔色を染めていた。
「何だと……?しゅごい……」
そして反撃しようとしたその時。
「『ブラックランス』!!」
後ろの茂みに隠れていたリリスが魔法を放った。
ちょっと予想外のタイミングだったけど、俺の指示は一応守ってくれているしいいか……なんて思っていると、予想外の出来事が起きる。
「ふんっ!」
ドラゴンが魔法を跳ね返して来た。
魔法はそのまま戻っていき、リリスを直撃する。
「きゃああああっ!!!!」
「リリス!」
「そこに一匹隠れておったか!小賢しい……そちらから先に始末してやろう」
リリスに向かって歩き始めるドラゴン。
俺はその進路を遮るように立ちふさがった。
「どかんか!」
ドラゴンは腕をこちら目掛けて振り下ろして来る。
「『かなりすごい防御』!!!!」
俺のクロスさせた両腕がドラゴンの腕を弾いた。
「んほぉっ!?しゅごい……しゅごしゅぎる……」
そしていきなり止めだ!
「『かなりすごい通常攻撃』!!!!」
「ギャアアアアアッ!!しゅごいいいいいいいいっ!!!!」
ドラゴンは息絶えた。
俺はすぐにリリスの下へと駆けより、その身体を抱き起こす。
「おいリリス!大丈夫か!?」
「ゆ、勇者様……私……最後を勇者様に看取ってもらえることが……勇者様の腕の中で死ねることが……本当に幸せです……本当に……あなたのことを……」
リリスはそこで意識を失い、身体から力が抜けていった。
「リリスーーーーーーーーーーッ!!!!」
その後、リリスはダメージによって疲れて眠っただけだったので背負って家まで帰り、ベッドに寝かせておいた。
あのくらいで死ぬことはないとわかってはいたものの、何となくリリスの猿芝居に付き合ってしまった形だ。
「まあ!本当にあのハイパーウルトラダイナマイトドラゴンを倒してくださったのですね!さすがは勇者アディ様!」
「はっはっは、もっと言ってくれ。ところで姉ちゃん、今夜一杯どうだ?」
「あら勇者様ったら、そういったお誘いでしたら今度はこちらのスーパーデラックスボンバードラゴンの討伐をこなした後にまたお願いします」
「斬新な断り方だなおい。ていうか甥っ子に名前つけさせんのやめろ。まじでドラゴンがかわいそうだから」
後日、すっかり元気になったリリスと冒険者組合まで足を運んで依頼達成の報告を行い、今は依頼達成の確認作業をしてもらっているところ。余程の事がなければ今日中には報酬がもらえるだろう。
冒険者組合からの帰り道で、リリスがおずおずと話しかけて来た。
「あ、あの……勇者様……ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした……」
「え……何が?」
「自分のタイミングで攻撃して、ドラゴンの反射を予見できずに負傷してしまったので……」
ドラゴンのいる山から帰ってきて目覚めてからというもの、何だかリリスの元気がないなと思っていたら、どうやら負傷した時のことを気にしていたらしい。
「何言ってんだよ……反射を使うなんて俺もわからなかったって。気にすんなよ」
「でも……帰りも勇者様に背負ってもらって……お手を煩わせてしまいましたし」
「仲間なんだからそれくらい当たり前だろ?」
その言葉を聞くなりリリスはハッと顔を上げて、
「な、仲間……でも、うん……今は、それで……」
とか何とかぶつぶつ言っている。
「今度はどうしたんだ」
「い、いえ!あの、勇者様、これからもよろしくお願いしますっ!」
「お、おう」
突然どうしたんだ……よくわからんやつ。
こうして王国を追放された俺たちは、冒険者として生活していくことになった。
何だか頼りない暗黒騎士と一緒に、まあぼちぼちやっていこうと思う。
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