#18

 魔法術士協会の召集を受けたアルテッサやその他の術士たちは再びデトロイトでその力を行使したベアトリクスを今度こそ捕縛、封印を執行する為に調査と探索を繰り返していたことを当のアルテッサは語り。その中で対象であるベアトリクスが”ある魔法”を身につけようとしていることが判明。


 オーバーサイクやウォーヘッドを秘密裏に保護しているメン・イン・ブラックことM.I.B.と同じく、表舞台に姿を曝さない魔法術士協会は今回の事件をパンクラチオンが始めたという前情報もあり管轄外としていたらしく故に到着が遅れた事も明かしたアルテッサは、そしてベアトリクスが求めているという”ある魔法”がどういったものかを告げる。


「ベティ……ベアトリクスは、転生を行おうとしてる。大昔に研究されてた魔法だけれど、星の命を全て魔力に変換すればあるいは……って、結局は成就しない魔法の筈だったのよね」


「それをあの女は星をも殺せるフォールンの存在を知ったことでそれを利用しようと考えた訳じゃな」


「それだけじゃない、フォールンと呼ばれる宇宙人共が”与えられていた役割”を彼女は代わりに引き受けて、その対価として転生魔法の成就を盤石なものにしてる。”約束の日”、最後の審判をもたらす存在の先触れとして、そして何より彼女自身の目的として、フォールンとしてベアトリクスは生まれ直そうとしてる」


 果たして誰が言った言葉か、この世に魔法や魔術と言った概念を持ち込んだ存在は、実は別の世界からやって来たのではないのかと界隈では面白可笑しく、冗談半分に語られてきた。そしてそれと合わせて語られる終末を指す”約束の日”。それを回避する為に魔法と言う力はもたらされたのではないのかとも、”上位者”という存在を信じ、それらが済む別の世界があると信じ、気狂いと呼ばれた魔法使いは死ぬ間際まで研究を続けた。


 真に堕ちしもの、真のフォールン。

 与太話では無いのかもしれない。近年増加傾向になる不可解な事件。現象。インフェルノと言う青年が失踪する直前に話していたもう一人の自分と、フォールンそして約束の日と契約。


 ニューヨーク襲撃の異星人が契約を結んだか、もしくはその役割を与えられ、フォールンとなっていたのなら、今度はベアトリクスが契約をし、役割を与えられフォールンとなろうとしているのではないか。アルテッサはそう語る。


「……フォールン? ママが……転生? もう、なにがなんなのよ」


「来るぜえ……来いよ、来いよ」


 一頻りの説明を聞いてもオーバーサイクはそれらを理解し整理し切ることが出来ないで頭痛すら覚えていた。混乱し、そのせいで集中できなくなるのを避ける為、今は一先ずそう言ったことは頭から離し、ブラスターを構えたレオンとそしてイヨの言葉にせっつかれ両手に魔力を灯す。ウォーヘッドの前へと歩み出て、彼を庇うように立った彼女と、そして皆が見詰める先で、蕾の様な形状に変わった遺跡が遂に花を咲かせようとして窄んだ先端部から広がり始めた。


 溢れ出すのは魔力光、その輝きは無垢な純白をしていて、一見すれば美しいものであった。しかし、花弁が広がりを増して行くにつれ純白は次第に黒ずみ、輝きは炸裂する火花に変わって行く。


 それは正しく、ベアトリクスが放つ魔力の特徴。怒り、恨み、妬み、憎悪、あらゆる負の面を内包した泥の様な魔力。

 咲いた花の中心から溢れ返るそれは一面を埋め尽くそうと広がって行き、オーバーサイクはこの場の全員を魔法により浮かび上がらせ地を埋め尽くす泥から逃れる。


 そして再び花を見詰める。浮遊した状態からならばその中心が良く見えた。そしてそこに見えたものは、纏う者を失い落ちたベアトリクスが纏っていた筈の黒い装束だけ。


「……何か、居る」


 オーバーサイクの背後に庇われていたウォーヘッドが掠れた声で告げる。その言葉に皆がそこに注目すると確かに、装束は僅かに蠢いていた。まるでその中に何か居るかのようで、少なくともろくなものではない。何か起こる前に叩くべきだと、オーバーサイクが敵意を見せた瞬間、地面を浸す泥状の魔力、それが幾つもの触手となり彼女たちを襲った。


 イヨやアルテッサの忠告でその事に気付いたオーバーサイクが障壁を全方位に展開し、アルテッサの雷とイヨとレオンのブラスターによる攻撃が幾つも伸びてくる触手を迎撃して行く。しかしその数は多く、迎撃を抜けて来た触手の一部が障壁へと届いた。だが貫通はせず、皆は無事。しかしぶつかった直後に泥状に戻った触手は障壁の表面に広がり、逃れようとした彼女らを障壁ごとその場に固定していてしまう。


 動けなくなったオーバーサイクは障壁を解除する事も叶わず、しかし攻撃はそれ以降何故か止み、怪訝に思う面々はやむ無くその場に留まったままで咲き誇るどす黒く泥にまみれた花の中心を見た。

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