#17

 ずっと屈辱の中に居た。

 自らの限界が疎ましかった。

 己を越えて行こうとする者たちが羨ましかった。

 そして、妬ましかった。

 禁忌を破り、力を借りる屈辱に耐えながら、人を食らい、同胞すら食らい。

 それでも、それでも、勝つことができなかった。


 ――この肉体では、己の望む高みへは至れない。


 だから子を作った。屈辱に耐えながら、才能と魔力に長けた男を選び、望まぬ子を腹に宿した。

 それが肉を成す前に、父親たる男を食らい。それ以外も、才能に恵まれた者たちを見境無く食らい続けた。

 全ては理想の肉体を作る為に。自らの手で、理想の為だけに。

 子の事など、それ以外どうでもよかった。


 ――筈だった。


 産まれた子は女だった。とても強い力を宿した、理想の肉体。

 その子の意識が確立されるその前に、自らの因子を埋め込めばそれで目的は達成される。

 だが、何故だ。何故それをしないのか。

 分からない、分からない。何故この子を奪うことが出来ないのか、分からない。

 子に興味なんて無い。なのに、何故目を離すことが出来ない。

 接し方も分からず、育て方も知らず。ただ服を買い与え、ただ食事を与え、そして日に日にこの子の私を見る目が変わって行く。


 ――孤独、悲しみ、憎しみ、怒り。


 力を付けるには必要なものがこの子には全て備わっている。

 私と違い、魔女になるべくして生まれたこの子は必ず私を越えて行く。

 だが、この子は私ではない。

 この子は私を越えて行く、私が羨み、妬んだ者たちと同じ。……筈なのに。

 何故私は魔法をこの子に教えているのか、分からない。


 ――もうこの子は使えない。


 何故かそう思った。私はこの子を使えない、この子になれない。

 けれど、だからと言って止まるわけにはいかない。

 けれど、この子の代わりを用意する。その気にも、どういう訳かなれなかった。

 この子のせいで全て台無しになった。筈なのに。

 筈なのに、私は何故、この子をいたぶる事も殺すことも出来ないのだろう。

 己の中に芽生えようとしている感情。


 ――なんだ、これは。

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