#8
ウォーヘッドが地球に送り込まれたのは数年前、それは多くの人の目に留まり瞬く間に話題となった。チェリャビンスク州の隕石落下と言われインターネットでも確認できるこの事件がそうだ。フォールンが計画したのかは不明であるが人々の関心を惹くことが出来たこともあり、ウォーヘッドの本来の目的である情報の収集は捗った筈だ。
そして、それとは別に、ウォーヘッドすら知らない、もちろん世間も知らないもう一つのフォールンの先触れが実は彼に先んじてこの地球へとやって来ていた。
「それこそがこれなのじゃよ諸君。遥か太古の地球にやって来たフォールンと呼ばれる異星人のテクノロジー、君だけでは無かったのだよウォーヘッド。こいつの解析は実に有意義であった、これでまたわしは先に進める。金もたんまりじゃ」
「再びフォールンを呼び寄せて、それでどうするつもりだ。奴らは人類を何とも思っていない。また蹂躙が始まるだけだ」
「そうさな、わしには関係無いことじゃが、フォールン。この名は果たして誰が奴らめに与えたものだ? それを知りたがったのではないかのう、パンクラチオンのリーダーとやらは」
そう、かつてウォーヘッドがそうしたように、フォールンの先触れは彼らを引き寄せる信号を発する機能が備わっている。ある程度の文明が栄えると行われる破滅へのカウントダウン。遥か彼方の宇宙を漂うフォールンがこの信号を受信すれば、奴らはワープを行いすぐさま発信源へとやって来る。ニューヨークの時と同じ様に。
あくまで自分と金のためだけにこの仕事を引き受けたらしいレオンは、この場に居ない犯罪集団パンクラチオンを纏める首領の目的をリパルサーチェアーの背凭れにより掛かりながら適当に予想する。それはフォールンを呼び寄せる目的が交渉や破壊では無く、その先に存在するかもしれない何者かの為ではないのかと言うものだった。
困惑するウォーヘッドと、興味が無いのか退屈そうにあくびをする彼の腕に座ったオーバーサイク。そして彼女は、兎も角としてそれを破壊してしまえば良いのだろうと告げる。少なくとも、鉄の卵は悪の思惑の為にある。ウォーヘッドも止めはしなかった。
「そうじゃな。なら後は任せるぞい。わしの仕事はついさっき終わったしな。好きにするが良い。ただ――」
そしてレオンもまた破壊を止めるつもりはないらしく、あっけらかんと言って退けて破壊に巻き込まれない位置へとリパルサーチェアーを浮遊させて移動して行く。しかし、その際彼は思い出したように指を一つ立てると二人を見て言った。
「――頭上に注意じゃ」
立てた指は同時に上を示していた。直後、青白い魔力の閃光がオーバーサイクとウォーヘッドの頭上に落ち、激しい衝撃が巻き起こる。
間一髪で防壁を展開したオーバーサイクにより、彼女自身もウォーヘッドもそれの直撃は免れるが、閃光により視界が埋め尽くされてしまう。
ただし圧力は上から掛けられていて、それを頼りにオーバーサイクは差し伸べた腕を振り払った。すると閃光は弾けて鉄の卵の方へと軌道を逸らす。激突するかに思われたそれはしかし途中で制止し、二人がその方を向くと輝いていたそれは次第に輪郭を露にしていった。
「……そんな、まさか……あいつは」
そう驚愕に表情を歪ませたのはオーバーサイク。彼女ははっきりし始めたそれの正体を知っていた。
「――久しぶりね。少しは大きくなったみたいじゃない。ねえ……ミュール。寂しかったわよ」
長い白髪を揺らめかせ、纏った漆黒のコートをはためかせる。輝く赤い眼を、同じ特徴を揃えたオーバーサイクへと向けるのは、最悪の魔女。
「……ママ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます