#3
喫茶店を後にしたミュールとウォーヘッドの二人は天に昇る光の柱を注意深く見ながら人目の付かない路地へと向かっていた。
人々はその神々しい輝きを見詰め、移動する二人には気付かない。ミュールは兎も角、巨体のウォーヘッドは人の姿をしているとはいえそれでも目立つ。これ幸いと適当な路地を見付け、そこへと歩調を速める二人。
「ぎゃあ!!」
「なに!?」
つんざくような悲鳴は人のものではなかった。思わず跳び上がったミュールが振り返ると、しかしそこには同じように怪訝そうな顔をしているウォーヘッドだけ。今のは何と訊ねる彼女に対しウォーヘッドは眉を潜めながら己の右足を見下ろした。釣られてミュールも彼の右足を見るとそこにはマンホール。
二人は一度顔を見合わせた後、ウォーヘッドが己の右足を持ち上げた。喧騒の中、二人はそのマンホールを見詰める。すると暫くして音を立ててそのマンホールが持ち上がり始め、そしてそこから顔を出したのは灰色の毛むくじゃら。
「……わーぉ……カワバンガ?」
「そう言うのもう飽きたぜ。確かに俺はねずみ色してるがねずみじゃねえし、言われる前に言っとくが猫でもねえからな。亀はまずねえ」
「クレイジー・キャット、イヨか。何故そんな所に?」
二つのとんがり耳をぴこぴこしながら開いたマンホールから出てきたのは灰色の毛に全身を包み、ジーンズを穿いて派手なバックルを付けた二足歩行する猫……の様に一見思える生き物であった。彼の名前はイヨと言い、様々な異名を持つらしいが広く知られているのはクレイジー・キャット。別の世界からやって来たという猫に近い獣人である。
イヨは地上に上がると早速腰の鞄から消臭剤入りのアトマイザーを取り出し、それで消臭剤を全身念入りに噴き掛けたうえで黒い鼻に空いた鼻腔を動かして自らの体臭を確認。とりあえずは許せる程度には下水の臭いも取れたのか、彼は一息つきつつ、ウォーヘッドの質問に答えた。
「色々あってな」
「そこを訊きたい」
「あいよ、大将には敵わないな。――追われて逃げてた。パンクラチオンに雇われて発掘された遺跡の解析に相棒と出向いたんだが、なんかパンクの連中にも色々あるみたいで現場がごちゃついてよ、んでいきなり湧いてきたバケモノどもにパンクはボコ殴り。相棒のノロマは拉致られるし、俺は追いかけ回された挙句に何とか帰って来たってわけ。……下水は臭くて堪らねえな。ニンジャなら堪えられんの?」
三人はイヨの説明を聞きながら、路地ではなくホットドッグを売るカートへと立ち寄り、そこで勝手に買い物を始めたイヨに顔を見合わせながらも最後まで聞いてみるとどうやら事の始まりは犯罪組織パンクラチオンが関係していると言うことが明らかになる。
購入した自分の分だけのホットドッグで頬を膨らませながらイヨは漸く促されて路地へと向かうのだが、話して行くとパンクラチオンを退けて何者かが遺跡とやらの調査を乗っ取ったらしい。しかもバディまで奪われたイヨはしかし逃げて現在に至るという訳の様だった。
何に追われていると言うのか、ミュールが当然の質問をするとイヨはくるりと振り返り口の中のホットドッグを飲み込んでから鋭い牙を見せて笑い、そしてよくぞ訊いてくれましたと得意そうに言う。
「ソレに追い回されてたの」
そして彼が指差した方、ウォーヘッドとミュールの背後。二人が振り返るとそこには刺の生えた拳を振り上げた巨大な影があった。
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