第8話 アイキャンフライ事件
気が付けば、確定診断を受けてから1年が経ってました。
あまりにもいろいろあったこの1年、飛ぶようにすぎるとはこういうものか、と思ったり。
書こう書こうとして忘れそうなんで、1年以上前の事。
取り合えず、診断を受けるために駆けずり回っていたころの話。
小児科から紹介を受けたクリニックで診察してもらった日、さらに事件が起こる。
名付けて「アイキャンフライ事件」とでも言いましょうか。
カースケさんは共働きの両親を持っているため、学校の学童保育に入ってて、そこでもいろいろやらかしてました。
そのころ。慣れない病院に行ったり、訳の分からないテストを受けさせられたり、そんなストレスも溜まっていたんでしょう。
その日学童で、ほかの子のためにとした行動が、危険な行為だったとして指導員の先生から叱られたカースケさんは、それをきっかけに感情の抑制が効かない状態にあったみたいで。
職場からの帰り道、自転車で30~40分かけて通っている私がその行程の三分の一ほどしかまだ帰れていない状態でその電話は掛かってきて。
「あの、カースケくんが暴れていて、窓から飛び降りようとするので指導員で抑えているんです。お母さん、早く迎えに来てもらえませんか」
焦るよね。そんなん言われたら。
学童の部屋は校庭の隅に建てられたプレハブの2階。
その窓から飛んだとして、命には別条ないかもしれないけれど、道路も近いしブロック塀も近く、ケガは免れない状態。
そんなこと見て見ぬふりするわけにはいかない。
かといって、私はあと20分くらい自転車を漕ぎ続けないと学童までたどりつかない。
さて、どうするか。
実は、その半年前くらいから旦那さんがたまたま学校のすぐ近くの職場で働いていて。
定時で上がるか上がらないかくらいの時間だったため、祈るような気持ちで電話した。
「カースケが学童の窓から飛ぼうとしてる!はよ行って!」
つながった途端それを伝えると、旦那さんは片付けもそこそこに学校に駆け付けてくれたらしい。
そのころにはだいぶカースケさんも落ち着いていて、旦那さんが駆け付けてしっかり抱きしめ、さらにクールダウンさせて無事回収。
そのまま連れて帰って、事なきを得た。
私が帰った時も、もうすっかり落ち着いて、いつも通りのカースケさんになってたし。
そんなこんなで「アイキャンフライ事件」は終結したのだった。
その事件に関しても、いろいろ思うところはあるけれど。
「診断をつけることを決意してよかった」
そこで初めてそう思えたかもしれない。
これで飛んでいたら、ただの変わった子で終わったかもしれないのだ。
2年のくせに自殺願望がある、衝動的な子。
そんなイメージで6年まで過ごすのは、かなりつらいだろう。
でも診断が着いたら。
これはこの子の行動特性の一つだ、と知っていてもらえたら。
何かしら対応が変わってくるかもしれないのだから。
それに、こんな衝動性を放置しているような親の子供だ、と思われることも避けたかった。
親もそんなんやからこの子には何をしてもいい、なんて思われたら体罰やらいじめやら、何されるか分からんわ、と思ったから。
まあ、実際は診断つけてわざわざこの子の特性を説明してお願いしてきても、体罰の餌食になってしまったんやけど。
差別やらレッテルやら、もちろん気にならんことはないけれど、カースケさんが元気にケガなく生きていってくれるなら、そんなものどうでもいいから。
とにかくカースケさんの周囲の地盤を固めるために、診断は必須だ、とそう思った。
これはあくまで私自身の思いで、こんな自傷とか衝動性のような行動特性を持たない場合なら、診断をつけずうやむやにしておくのも手かな、とは思う。
ちょっと変わった感じの人、なんてそこら中に転がっているので。
でも、どう考えても周囲の人の力を借りなければならない場合が出てくるのなら、白黒はっきりさせておくことは大切なんじゃないかな。
ここからは、こんなにも危険を伴う行動に走ることはなくなっている。
口やら書くことやらで「死ぬ」「死んでやる」「家出する」などという危険な意思を表明することがあるけれど。
それでも、まだまだカースケさんの中にそういう衝動性がなくなったわけではない。
これからも、感情のコントロールと共にその衝動性の扱い方も、親子ともども覚えていかなければならない重要な課題なんだな、と思ってます。
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