身に覚えがないのに2期制作決定!!

ちびまるフォイ

だいたい2期は失敗するジンクス

『 おめでとうございます! 二期制作決定!!

  来年の5月に公開予定!! 』




「……は?」


突如、家に送られてきたダイレクトメール。

どうでもいいチラシならそのままゴミ箱へと流されるも、

二期制作決定というわけのわからない告知が目を引いた。


「なにかやってたっけ……?」


小説をサイトで公開はしていたけど書籍化などしていない。

漫画なんて描いてないし、アニメも作っていない。


1期すらないのに、いきなり2期に進行するものがない。


「……まぁ、なんかのいたずらだろう」


無視して見なかったことにした。


数日後、またチラシが届くもんだからさすがに無視できなくなった。


『 2期制作進行中!! 』


「だからなんの2期なんだよ!!」


チラシには連絡先も書いてないし作品名も書かれていない。

いったい俺の作品がいつどこで2期作られているんだ。


「まさか……!! 勝手に応募されて、受賞してたパターンか!?」


俺には結婚を決めている彼女がいる。

彼女には俺が連載している小説のことから、お尻のできもののことまで話している。


かねてから書籍化したいと寝言のように言っていたから、

気を利かせた彼女が出版社に売りこんで、あれよあれよと書籍化。


で、飛ぶ鳥を重力反転させて叩き落とすくらいに人気を獲得。

社会現象になったことで1期公開前に、2期の制作までも決まったとか。


「もうそれしか考えられない!! 間違いない!!」


俺がニュースをあまり見ない盲点を突かれた。

社会情勢にもっと詳しければ、俺の人気ぶりにもっと早く気付けたのに。


街の書店を探しに探し回って、出版社に連絡を取りまくった。


「あなたの小説? いや、そんなものはないですよ」


「えっ」


「仮に、仮にですよ? あなたのその妄想話が本当だったとして、

 書籍化する前に作者に連絡入れますよねふつう」


「……普通じゃない面白さだったから、連絡とらないパターンも」


「何言ってるんですか。こっちは会社ですよ。

 契約書面もあるんだから連絡なしに進めるはずないでしょう」


出版社の冷たい宣告により、俺の推理は見事にはずれた。

これじゃなかったら一体なんの2期だっていうんだ。


相変わらずダイレクトメールは届いてくる。



『 2期制作進行もついに中盤!! カミングス―ン! 』



「くそっ! いったいなんの二期だってんだ!


自分のあずかり知らないところで勝手に進行するのがこんなに怖いなんて。

2期制作決定から5か月が経過し、すでに中盤を過ぎたらしい。


俺はいっこうに2期の尻尾をつかめずにいた。

いつしかダイレクトメールが届くのが怖くなっていく。


「そうだよ……見なければいいんだ……」


とった対応策は知らんぷり作戦。


わけのわからないチラシを見るから不安になる。

だったら、最初から見ないようにしてだんだんフェードアウトすればいい。


そうして始めた無視作戦だったが、人間の心理上無理なものはムリだった。


「うわあぁぁ!! 見えてないとますます怖い!!」


ただでさえ、勝手にどこかで俺の2期が制作されているというのに

その進捗すら把握できないと、いつの間にかとんでもない事態になっているのかも。


タンスに潜む幽霊でもおびえるように、見えないことへの恐怖がつのる。


「よ、よし……もう腹を決めよう。2期は受け入れる、それでいいじゃないか。

 そうだ。名前も付けておこう。そうすれば覚悟も決まるはずだ」


今までの自分は急にできた2期におびえるしかできなかった。

名前をつけて「自分のもの」として認識できれば恐怖も薄らぐ。

ダイレクトメールを見る勇気もわいてくるだろう。


「よし、2期の名前は……。

 『トリニティ・ダークネス・レガシーボム』にしよう。

 とりあえずなんかかっこいい系にしておけば問題ないだろ」


俺が今まで書いていた創作物はどれも硬派なSF小説。

そのどれかがデビューしていたとしてもこの名称なら問題ない。


1期が作品名そのままだったとして、

2期で名前をかっこよく変えてみるのもいいだろうし。


不思議なもので、名前を決めると腹が決まるというか、覚悟ができた。


「見るぞ……えいっ!」


勇気を振り絞ってポストを開けると、貯めていたダイレクトメールが……。



「ない!?」


届いてなかった。

あれほど頻繁に届いていた2期制作連絡がひとつもなかった。


すでに公開まで1ヶ月もないこの期間になんの連絡もないなんて。


「まさかトラブルでもあったのか!?」


連絡をよこせなくなるほど甚大な何かがあったのかもしれない。

ますます心配の種は肥大化して不安の花が咲き乱れる。


「ああああ!! 怖い怖い!! 誰か! 誰か今の状況を教えてくれ!

 なにも知らないまま進むのは怖いんだ!!」


結局、なにも連絡がないまま、2期の公開日になった。


「どこかに……どこかにないか……」


勝ってきた番組表で、自分の作品名がないかを必死に探す。

けれど、そもそも名称が変わっているかもしれないので特定できない。


「ああクソ! 2期が公開したっていうのに、確認すらできないなんて!!」


悔しがっていると、彼女から電話がかかってきた。


「もしもし? なんだよ、今いろいろ忙しいのに!!」


『……私、今病院にいるの』


「病院!? ケガでもしたのか!?」


『○○病院にいるから』


電話は一方的に切れてしまった。あまりに短い言葉に違和感を感じた。

思えば、2期の告知が出てから彼女をほっぽっていた。

なにかまずい事件に巻き込まれたのかもしれない。


ますます怖くなって車を飛ばして病院にたどり着いた。

何科なんて確かめもせず受付に猛ダッシュ。


「あの!! ××っていう人はどこの病室ですか!?」


「3階の301号室ですよ」


それだけ聞いて階段を3段飛ばしで駆け上がる。

病室のドアをぶち破って駆け付けた。


「大丈夫か!? ケガは!?」


病室にいた彼女はどこもけがをしていなかった。

そして、小さな赤ちゃんを抱いていた。


「早かったね」


「ちょっ……その赤ちゃんは?」


彼女はふふと小さく笑った。



「ずっと言っていたじゃない。あなたの2期が制作決定したって」



「君だったのか……ずっと連絡していたのは」


「驚かせたかったのよ。驚いてくれてよかった」


「そりゃもう……」


心臓はばくばくと心電図の波でサーフィンできるくらい早回しになっている。

それでも幸せな気持ちでいっぱいだった。


「よかった。本当に良かった……!」


「ねぇ、この子の名前決めて。あなたの2期の名前よ」



 ・

 ・

 ・


「というのが、お前の誕生した日の話だよ」


俺は息子に最高に幸せな1日のことを教えてあげた。


「お父さん、ひとついい?」


「なんだ?」



「息子の名前を

 トリニティ・ダークネス・レガシーボム にしたのは許さない」



なお、3期も制作も決定したらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

身に覚えがないのに2期制作決定!! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ