(タイトル未定作品)

三城 谷

プロローグ 「花咲く木々の下で」

 寒い季節が過ぎていき、温かい春の季節がやってくる。

この世に生まれてきて、何回目の春になるだろうか。1、2……。

頭の中で数えてみれば、その数は早いもので16年という事らしい。


 「…………」


 目を瞑りながら、微かに流れる風には花の匂いが鼻をくすぐる。

16年間、何不自由ない暮らしだったけれど……もうこれで生涯一人になる。

青い空に昇る細い煙の下で、僕は両手を合わせる。そこで眠る者に別れを告げて。


 「葉月様、お車の準備が出来ましたのでこちらへ」

 「……はい。もう大丈夫です」


 スーツ姿の女性の声に誘われ、僕はその場から立ち上がって言った。

車へと案内されながら、僕は足を止めて残っている人達を流し目で見る。

ハンカチを持って涙を流していたり、何かを集まって話している人たちが居る。

僕はその人々たちと目を合わせないようにして、案内された車へと乗った。


 「葉月様。今回の事は、その……」

 「良いですよ。父も母も、そして祖母は最期まで元気でした。貴方は父の遺言で、僕たちのお世話をしてくれました。それはとても感謝しています」

 「いえ。そんな勿体無い言葉を。奥様も旦那様も、そして叔母様も、天国で見守ってくださいますよ。この後はどうするご予定ですか?私であれば、どこへでも着いていきます」


 そう言って、彼女は車を発進させる。

目的地を決まっているのかは知らないが、その言葉の答えはもう決まっている。

実はずっと前から、少しずつ考えていた事なのがあるのだ。


 「――じゃあ僕から提案なのですけど」


 僕がそれを言った瞬間、彼女は驚いて車を左右に揺らす。

その動揺には驚いたけれど、僕はそのまま言葉を続けて告げる。

それを正気かと聞かれて、僕は頷いて肯定した。


 僕は、神柳かみやなぎ葉月はづき

一度でもやってみたい事があって、一人暮らしをしてみる事になりました。

彼女には申し訳ないけれど、お世話も断って頑張る事にした。


 そう意気込んで頑張ろうとしていたのだけど……。

そう思っていたのだけど……とある事情でそれは長くは続かなかったのだった――。

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(タイトル未定作品) 三城 谷 @mikiya6418

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