第8話

「食挑者(しょくとうしゃ)ーー冒険者が魔に連なるモノの素材を狩る武器防具作成の協力者なら、食挑者はそれらの素材を使って新たな〝料理〟を生み出す協力者、といった感じかの」


ジュジュ達はいま、食挑者試験を受けるためにギルドの裏手にあるグラウンドに来ておる。

白線の引かれたここは新人冒険者に指導するために使われ、今回のように試験を行う時も活用されるらしい。

むき出しの地面からは微量の魔力を感じるので、穴が開いても自動修復がされるようじゃ。囲っておる鉄格子にも障壁魔法が使われておるようじゃし、さすが王都のギルド本部といったところかの。

ジュジュの説明を聞いてもあんまり理解をしとらんリメッタに、セバスチャンが噛んで含ませるような声で話しかける。


「昔から魔物や魔獣の素材を使って強い武器の作成はされていました。強い獲物の素材を使って武器を作り、より強い獲物を狩る。極端に言ってしまえばそれが冒険者の生業です。ですが魔に連なるモノの素材、食べても通常の家畜や農作物より品質が良いという側面もありまして」

「ジュジュが魔王の時は魔獣料理はゲテモノ扱いじゃったが、三百年前に食挑者という職業が出来たのなら、そういった料理も認められたという事じゃろうな。と、勘違いしてはいかんのは、ジュジュからしたら狩ってよいのは基本的に魔獣のみじゃ。特例として害をもたらす魔物もおるが、その他の魔物や魔に連なる種族は全て対等の関係じゃ」

「何となく食挑者については分かった気がするけど、そもそも強い武器って家の倉庫を探したら出てくるものでしょ? 料理だった材料はどれを使っても同じなんじゃないの?」

「……そりゃ自宅の倉庫にオリハルコン製の武器が転がってて、毎日神々の晩餐を食べておるおぬしの意見じゃ」


世間知らず、とはさすがに言えん。相手は受肉した女神、地上の常識など持っておらんし特にリメッタは何も知らなそうじゃしの。


「待たせたなボウズーーじゃなくてジュジュアンと言ったっけか。準備はこれで良いぜ」

「うむ、それで審査員はギルド長のおぬしでよいのかの?」


グラウンドの真ん中で試験の受験をしておったギルド長が来たが、ジュジュの言葉には首を振る。


「冒険者試験ならこの俺、元四天王の〝竜裂き腕(かいな)のバーバリー〟が相手をしても良かったんだがな。食挑者試験となるとどうにも出来ん」

「ギルド長なのに出来んのかの?」

「ぐっ、痛いとこを突きやがるなてめえ……そもそも食挑者になりたがる奴が居ねえし、一番最近の試験も十数年前だったりする。たかが数年のひよっこギルド長じゃ務まらねえよ」


最後は皮肉じゃろうが、さて、ならば試験はどうなるのじゃろうか。

というか、


(そもそも食挑者として活動して、魔獣料理を人の世に認知させたのはジュジュなんじゃよの〜)


普通の料理にお菓子の材料にと様々な素材を使い、事あるごとに冒険者協会に報告しまくっとった。おかげで魔獣料理にハマる人族が続出したし、噂では王族もハマってしまったそうな。

そんなこんなで基盤を築いたジュジュじゃったが人族との戦争が激化してお忍びも出来なくなり、転生前にセバスチャンに頼んで食挑者活動を続けてもらい、冒険者と似て非なる職業として認知させるまでになった。

まさに転生したジュジュが就くためにあるような職業! 腕が鳴るというものよ!!


「と、審査員が来たようだな」


バーバリーの言葉で後ろを振り向くと、外装を羽織ったいかにもな男女五人がハンナに連れられてこっちへ歩いてきておる。ハンナの服装もいつのまにかギルド職員のそれになっておるが……ウエイトレスも業務内容に入っとるんじゃろうか。

その中の一人、眼帯を付けた彫りの深い男がジュジュの前に仁王立ちする。

威圧感バリバリじゃが殺気は皆無じゃ。むしろほんわかした気配を感じるぞい。


「ーー君が食挑者試験を受けると言ったジュジュアン君だね〜。うんうん、利発そうで見た目もいいし、ハンナ君の話ではどこかのご子息なんだって? それなら良いものも食べてるだろうから味のセンスも大丈夫だろう。よし合格!!」

「寝言は寝て言えリンタム。いくら食挑者になるものが少ないからって試験も無しに合格は有り得んだろ」

「そうは言ってもバミーソン、お前が受けてから今日まで食挑者試験が開催されたのが何回か知ってるかはいそこの眠そうなシュメット君!!」

「ゼロ回でしょ、リンタムおじ様のテンションが高すぎてその子達が引き気味ですから少し落ち着いてくれません?」

「相変わらず小鳥の囀りのような可愛らしい声だね愛しの姪っ子は。だが久方ぶりの食挑者試験なんだ、テンションが上がるのも無理ないとガゾブ兄弟もそう思わないかい?」

「「…………」」

「相変わらずの照れ屋さん!!」


……な、なんじゃこのテンションの暴風を撒き散らすやつは。最初の貫禄ある顔はどうした、孫にデレデレのおじいちゃんがお酒を飲んで暴れまわっとるようなテンションじゃないか。

シュタットと呼ばれた、お母上より若い女性がジュジュに視線を合わせて膝をつき「騒がしくてごめんなさい」と謝ってきた。


「食挑者は数が少ないし受験する人も居なくて、今じゃ絶滅寸前なんて言われている職業なの。それでもあなたのように将来有望な子が食挑者を選んでくれて嬉しいわ」

「絶滅寸前か、なんとなくそんな感じはしておったがの」


転生して十二年分の知識で、食挑者が活躍したという話は聞いたことがない。やれ伝説の冒険者が巨大なドラゴンを倒しただの、冒険者パーティが魔王の側近の末裔と戦って勝利したは噂として流れてきたが、食挑者は名前すら出てこんかった。

セバスチャンに教えられて試験が受けれる事も知ったしの。


「それで試験とはどんなものなのじゃ?」

「うんうん、やる気があっていいねジュジュアン君! アンナ君、説明よろしく!!」

「は、はい。まずはあちらに魔石を用いた簡易キッチンを用意しています。こちらが指定した食材を用いて好きな料理を作ってもらい、審査員の過半数以上が合格と認めれば試験突破となります」


うむ。バーバリーが準備しておったのはあの簡易キッチンじゃな。オーブンも付いておるし中々しっかりしたものじゃが、はて、食材が見当たらんの。


「食材はどこにあるんじゃ?」

「はい、今から取り出しますねーー〝解放(リリース)〟」


そう言ってハンナは腰に付けた皮袋の口を開ける。すると台の上に乗った野菜や肉、小麦粉や薄力粉や卵や水など多様な食材が姿を現した。


「『収納袋』か。その色合いからしてショーグンガエルの胃袋かの?」

「正解です、よく分かりましたね。収納袋としてのランクは一番下ですので容量も少なく鮮度を保っておく事は二時間程度ですが、一応ギルド職員全員に配られているのですよ」


魔境や洞窟、鬱蒼とした森など、魔物や魔獣の潜む場所にいく冒険者には必須の魔道具といえよう。

高性能なほど値段も希少性も跳ね上がるが、ショーグンガエルの胃袋なら比較的入手しやすい。ギルド職員全員に配っとる事には驚いたがの。


「アマオウ様、私に手伝える事があれば何なりとお申し付けください」

「アマオウ、私お腹空いたわ。そいつらのを作るんなら私にも何か作ってくれない?」


セバスチャンの申し出は断りリメッタにはチョップをしといて、よしやるかと意気込むーーじゃがジュジュのやる気は、「ちょっと待て」という誰ぞの言葉に遮られる事になった。


「その者の料理の腕、特に菓子作りの腕前はワシが保証する。のうジュジュアン・フラウマール、またの名を〝お菓子に愛された絶世の美少年〟!!」

「そんな名で呼ばれた事ないんじゃが!?」


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