第7話

中に入ると、ジュジュが思っていたのとは予想外に綺麗な作りの建物内部じゃった。

外から見れば石造りじゃが、壁や天井は滑らかな平面をしておる。

異世界で見たコンクリートによく似通っておるが、六百年以上も経てば建築技術も上がるのじゃろうな。

白の塗料で塗られた建物内部は清潔感があり、ガラス越しのカウンターに座っている職員達もまじめに働いておって、うむ、何だか感動したぞい!!


「魔王の時に視察で見た冒険者協会とはえらい違いじゃな。あの頃は掘っ建て小屋に極悪人と小悪党を詰め込んだようなものじゃったからな」

「まだあの頃は民営事業でしたが、汚職や脱税その他諸々の汚いことが続いたので、三百年ほど前に冒険者協会は国営化されたようです。名称も冒険者協会から〝ギルド〟となり、またその頃になってようやく食挑者(しょくとうしゃ)という職業が認知されてきました」

「そうか……ジュジュが居なくなって三百年もかかったのか……長い道のりじゃったの〜」


などとセバスチャンと二人しんみりしておったら、袖をちょいちょいと引っ張る感覚がする。見ればリメッタが怪訝そうな顔をこちらに向け、分かるように話してよと目で訴えかけてきておった。


「ちっ」

「あからさまに舌打ちしたわね!?」


冒険者協会、もといギルドに入ってすぐ壁側に寄っておったジュジュ達じゃが、端の方に休憩用なのか複数の椅子とテーブルがあるのを見つけた。

どうやら飲食のできる区間のようで(昔も酒場が併設されとったが現代は酒類禁止となっておる)、セバスチャンのものと似た給仕服の娘に果実水を頼むとそこに座る。

その瞬間、建物内がやけにザワついたが、何ぞしたのかの?

と、給仕服の娘が大慌てでセバスチャンの手を引き椅子から立たせようとする。


「だだだ駄目ですよお兄さん! このテーブルは〝四天王(してんのう)〟の皆様の専用になりますから!! 早くどけないと、あれ? お兄さんすっごい重い!? ちょ、ビクとも動かないんですけどーー!!?」


セバスチャンの膂力(りょりょく)は神をも超えるじゃろうから、グイグイ引っ張られても微動だにせん。ちょっと娘が可哀想になって……あ、涙目になってきておる。


「せっかく『見慣れないイケメンがきて触れるなんて役得ぅ!!』って思ってたらとんだ災難だったよー!!」

「心の声がダダ漏れじゃなおぬし……ええと娘さんや。ここはその四天王? というやつら以外は座っては駄目なのかの?」

「金髪碧眼の美少年!! じゅるりっ」

「おいヤバいぞこやつ」


ヴィーと似た獣の目を一瞬見せた娘は「今の無し無し!」と頭を振り、子供を優しく叱る母親のような笑顔を浮かべた。

……さっきのを無しに出来る胆力には正直驚きじゃわい。


「このテーブルはギルドがまだ冒険者協会って呼ばれてた時代からある超がつく骨董品で、座れるのは代々王都で最も実力のある四天王だけなのですよ」

「それ、ジュジュ達は初耳なんじゃが?」

「きちんと調べればすぐに分かる情報だから、玉石混交の新人を選別する基準には丁度いいのです」

「ふむ、もう既に試験は始まっておるという事か……して、ジュジュ達は何も知らず座ってしもうたが罰則でもあるのかの?」


娘はセバスチャンをどかすのを諦めたようで(腕は絡ませたままじゃが)、カウンターの奥にいる同僚に手を振って果実水を持って来させておる。

ん、実は偉いやつじゃったのか……いや、盆で頭を叩かれとるわい。調子に乗りやすいんじゃろうな。

果実水はテーブルに置かずジュジュ達に手渡しされーーそうになったがセバスチャンとリメッタは頑として受け取らずテーブルに置かせたの。


「いえ、特に罰則はないのですが……その身なりからしてどこかのご子息様御一行と思うのですが、冒険者試験を受けにきたんですよね? 最近は上流階級の方々の間で冒険者資格を取るのが流行ってるそうなので……まぁ何といいますか」

「つまりはな。箔を付けたいだけの世間知らずのボウズには殊更厳しい試験を受けてもらうって事なのさ」


背後から野太い声が聞こえ、大きな手が無遠慮にジュジュの頭へと置かれた感触がする。

声が聞こえた瞬間からジュジュは不可視の拘束魔法を唱えてセバスチャンをグルグル巻きにしておいた。

案の定セバスチャンが背後の人物を消そうと動きだそうとしたので、ジュジュは頭を撫でられながら息を吐く。

魔王時代じゃと、セバスチャンは不遜な物言いをしてきた魔物を百回以上殺して蘇生を繰り返しておったからの。

無理やり拘束魔法を解かないあたり丸くなったとは思うが、注意しとかんと周りが焦土に変わりそうじゃ。


「セバスチャン、すぐに手を出そうとするのは悪い癖じゃ。拘束魔法を解くが……分かっておるな?」

「かしこま」

「りました、までなぜ言わんのじゃ? あとおぬしもいつまでジュジュの頭を撫でておるつもりかの?」

「おぉ、すまねえな。まるで女みてえにサラサラの髪だからよ、昔の俺を懐かしんで、ついな」


後ろを振り向くと禿げた筋肉の塊、いや、屈強そうな巨漢の男が立っておった。

じゃがどう考えてもジュジュと髪質違うじゃろ。百獣兵長グルルンルンのタテガミくらい剛毛そうじゃぞこれは!!


「ハンナ、この堂々とテーブルを占拠してる三人組はどこのどなた様だ?」

「は、はいギルド長!!」


娘が背筋を伸ばして飛び跳ねる勢いの返事をする。

ん、というかこの男ギルド長か。


「ギルド長なら話が早いわい。だいぶ話が逸れてしまったが、ジュジュ達三人は試験を受けにきたんじゃよ」

「ほう、どこのどなた様が存じ上げねえが従者まで冒険者試験を受けさせるとは豪気だな。そっちの可愛い子ちゃんは妹か? しかし周りをよく見てみな、冒険者ってのはこういった脛に傷を持ってそうな奴がなる職業だ。自分の足でここまで来た事は褒めてやるが、どっかの腕利きを捕まえてそいつに冒険者試験を代行ーー」

「待て待て、誰が冒険者試験を受けると言ったかの?」

「あ? だがここで受けれる試験なんて……」

「まだあるじゃろ? 少なくともジュジュはそう思ってわざわざギルド本部まで来たのじゃが」


ここでやっと、ギルド長の男は思い至ったのかその目を見開いていく。隣のハンナとかいう娘も同様にーーと、そんな驚くことかの?


「まさか、おめえら……」

「ジュジュらは食挑者(しょくとうしゃ)試験を受けにきたんじゃ。さあ、早く案内してくれんかの!!」


張り切った様子のジュジュの大声とは真逆な小声で、リメッタがぽつりと漏らす。


「いやだから、食挑者ってなに?」


……そういえば説明しとらんかったの。


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