第5話

「い、いい加減追いかけ回すのやめなさいよねー!!」


うむ? 大神アンドムイゥバが訪れた時の事を考えて無言になっておったので、最初の指示通りダイフクは女神リメッタを追いかけ続けていたようじゃな。

かれこれ一時間くらいじゃろうか?

じゃがそれだけの時間では腹の虫が収まらぬジュジュは、ダイフクの頭の上まで移動して未だ追われ続けておるリメッタを一喝する。


「この考え無しのポンコツ女神! ダメダメ女神め!!」

「ダメダメって言うなー!!」

「うるさい! 元はと言えばおぬしが発端でステータスだのレベルだの出来たのではないか!! それを今の今まで忘れておって反省せい!!」


セバスチャンが連れてきた大神の御使いの事を思い出す。妖精猫(ケットシー)は大神アンドムイゥバの御使いとして有名じゃが、大神自らが依り代に使うのだから特別仕様の御使いじゃった。

といっても、物凄く魔力と生命力が小さくて普通の猫ほどの力しか持ってないという意味での特別仕様じゃ。

しかも依り代に使うために百年ほど地上で過ごさせておるから魔力も地上に馴染みやすく、現れた場所が変化することはないとの事。


(しかしまさか、酒に酔った勢いで大規模改変魔法を使うとは……それもリメッタに唆され神器まで使用しての魔法。一瞬で世界を七度滅ぼし七度蘇らせる事のできる神器を使ったんじゃ。容易に元に戻すのは無理じゃろうて……)


「とことん末っ子女神に甘い神(やつ)とは思っておったが、お酌してくれただけでほいほいお願いを聞くとはーーまったく情けない大神じゃの」

「い、いちおう偉大な我が主なのでそれ以上は言わないでほしいニャ」


逃げとるリメッタを見下ろすジュジュの隣で、空中を浮遊しておった大神の御使いーー確か名をクリームといったかの。

そのクリームが目を細めてジュジュを見ておる。


「事実じゃから仕方ない! それよりクリームは神界に戻らんでいいのかの?」

「出来ることなら今すぐ戻ってこんな面倒くさそうな案件かり離れたいニャ。でも我が主から監視(・・)するように言われてるから、ビスコッティの詰め合わせは他の御使いに任せて、クリームは社畜よろしく命令に従うのニャよ」


……なんかまた濃いのがきたの。まぁ良いか。ならば後のことはこやつとセバスチャンに任せるとしようかの。

それにしてと、リメッタのやつアンドムイゥバから祝福を与えられておったの。後でどんなものか聞くとしよう。


「称号アマオウの効果を封じる腕輪を貰ったし、魔王の調理器具は調理スキルを上げれば使えると太鼓判も押してもらったからの。地上でのサポートにリメッタとおぬしが付いてくる事になったが……正直リメッタのほうは要らないが我慢するとしよう」

「そうしてくれたら嬉しいニャ。その腕輪も三百年ものの月桂樹から作ってるから大切にしてほしいとの事だニャ。というか聞き忘れてたんニャが、なぜお嬢様は追いかけられてるんだニャ?」

「降臨したての神族は、いうなれば歩く自然災害のようなものじゃからな。そこにいるだけでその地域を聖域や魔境にしかねん。そうならぬよう魔力を地上に馴染ませるには魔法を使うのが一番なんじゃよ」

「ニャるほど……それなら飛行魔法じゃなくて他の大規模魔法のほうが良くないかニャ」


正論を言ってのけるクリームに、ジュジュは前方をひと睨みして一言。


「それだと面白くないしジュジュの気が収まらん」


あとは納得してくれたのか黙っておったので、魔力が馴染むまでの追いかけっこはセバスチャンとこやつに任せ、ジュジュは小屋に引っ込むとしようかの。


「あ、おかえりなさいませアマオウ様〜」


……ベッドルームに行くと当然のようにヴィーが裸で待っておったので、召喚魔法で無理やり帰還させたのは言うまでもないーー


▲▲▲▲▲


さて翌日。

ふかふかのベッドから名残惜しく抜け出し小屋の外に出ると、山々の間から覗く朝日を全身に浴びながらうつ伏せに寝るリメッタの姿が見えた。心なしか全身ボロボロなようじゃが、うむ、気のせいじゃろ!!


「だいぶ魔力も地上に馴染んだようじゃな。これなら小屋の中に入れても作物に影響は出んじゃろ。セバスチャンとクリーム、それにダイフクもご苦労じゃったの」


ダイフクが寝そべった首を持ち上げ眠そうな声を上げる。ダイフクが横たわっているのは山麓に広がる湖畔じゃ。こういった手付かずの自然には魔獣が住み着いておるものじゃが、ドラゴンに近づこうと思うモノはおらんかったようじゃな。

クリームは猫らしくリメッタの近くで丸まっており、こちらも気だるそうに尻尾を振るだけ。

セバスチャンだけ常と変わらぬ笑顔で立っておるが、そういえばこやつ昔から疲れ知らずじゃったの……。


「セバスチャン、リメッタをベッドに寝かせてやれ」

「では二階にあるゲストルームに放り投げーー運び込みましょう」


いま放り投げましょうって言おうとしたかの?


「あまり手荒にせぬようにな。それで今はどのへんなのじゃ?」

「はい、当初の予定通り人族の王都の近くに来ております」


リメッタを担ぎながら答える声に、ジュジュの心が自分で思っていた以上に高鳴るのを感じる。


「この山の向こうに、〝食挑者(しょくとうしゃ)〟本部があるんじゃな!!」


雲も少なく、空気も澄んでおる。気力も体力もたっぷり寝たから充分。

絶好の食挑者試験日和と言えるぞい。と、その前にーー


「まずは腹ごしらえじゃな」


空腹を訴えるお腹を抑えながら、なにを作ろうかと思案する。

そういえば昨日、あのオーブンレンジで四角いパンを作ったの。フレンチトースト風にして、うむ、エッグベネディクトにでもするとしようか。

壁に設置された魔石の出力ボタンをオンにし、戸棚に入れておいた昨日のパンを取り出す。サイコロ状に切るとコンロの火にかけたフライパンにバターを入れパンも投入。

ほどよくバターが絡んだら皿に取り出し、空飛び豚(トン)の燻製ハムをスライスして乗せ、海潜り豚(トン)のベーコンをカリカリに焼いて乗せる。

畑で少しだけ採れた異世界ニッポンで苗を買い育てたレタス、ポーチドエッグを乗せオランデーズソースをかければ完成じゃ。

確かオキナワというとこで食べたものじゃが、うむ、ジュジュが作ったやつのほうが美味しそうじゃぞ。


「まぁお菓子作りでは全然ないんじゃがの」


とりあえずセバスチャンとリメッタの分も用意して、次に機会があれば甘味の朝食も挑戦してみようかの。

この後ジュジュが用意した朝食をみてセバスチャンが鼻血を出したりと一騒動あったが、目的の王都に無事入る事ができたのじゃったーー


▲▲▲▲▲

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