第3話
少女の言葉で驚愕したのは晴人だけではなくその場にいた全員が同じであった。晴人はよくこう言ったラノベを読んでいたりしていたからもしかしたらと思いつつもそんな事は現実にはありえないと思っていた。しかし、まさか自分がそんな事になるとは思っていなかった。
「異世界・・・まさか本当に存在しているとは。」
クラウスは少女の言葉を聞いて驚愕していたがすぐに落ち着きを取り戻した。
「では、彼はこの世界の事を何も知らないという事ですよろしいですか?女王よ。」
「ええ。簡単な知識だけなら契約で補えるけど何も知らない事には変わりないわ。それと私は・・・」
「クラウス。そいつはまだ女王じゃないぜ。」
すると、クラウスの隣から獅子が突然現れた。大きな鬣、巨大な身体。それはまさしく王者に相応しい風貌をしていた。突然現れた事にも驚いたが人の言葉を話している事が1番驚きだ。おそらく精霊なのだろうと先程の説明を聞いていたから理解することができた。
「リオス。どういう事だ?彼女は我が国の女王ではないか。何故、女王じゃないと言い切れる。」
「力だよ。精霊特有の力の波動がコイツからは少し強い精霊位しか感じない。他の王の様な波動がしない。」
「その通りよ。今の私は女王じゃない。先代から記憶と力の一部を受け継いだだけのただの精霊。」
「まさか、世代継承。」
世代継承。それは精霊が次の世代に自分の能力、知識と言ったもの全てを継承させる事。精霊も生命だ。人間よりはるかに長い寿命を持っているがそれでもいつかは消える定め。その際行われる儀式であり。自身の肉体に新たな命を宿らせてその際自分の全てを引き継いでもらう。ある意味では世代継承した精霊は継承する前の精霊と同一存在でありまた同一存在ではないと言える。そして、白の女王であった者は世代継承を行い今ここに立っているのは白の女王の力を受け継いだ彼女の娘のようなものであった。
「成る程、だが女王はまだ継承する程年齢を重ねてなかったはず。目覚めるにしても流石に強引じゃねえか?」
「・・・それは、私にも分からない。ただ、先代は今目覚めなくてはならないと判断したから世代継承を行ったんだと思う。」
ここに来たばかりの晴人にとっては何がどうなっているのかは分からないが分かっている事は、彼女は白の王と呼ばれる筈の精霊ではあるが今は力自体が弱く王と呼ばれるほどではないという事。そして、自分がそのマスターである事。つまり、自分はこの国の王と呼ばれるようにならないといけないが彼女の力が弱いのでそう呼ばれることがないという事。
「・・・成る程。ならば、今後の方針を決めなくてはいけないな。すまないが、彼に客室へと案内してくれないか。それと、キャロラインも読んでもらいたい。」
「はっ!直ちにご用意いたします!」
晴人の側にずっといた騎士は直ぐに立ち上がり部屋から出ていった。
「今日の所は疲れたであろう。部屋を用意するのでそこで一晩休むといい。此度の事、本当に申し訳ない。」
「い、いえ!王様が頭を下げないでください!王様のせいではありませんから!」
一国の王が晴人に頭を下げたので慌てて顔を上げてもらうようしてもらう。まだ整理はついてないがこの人に非がない事は確実に分かっていたから。
そして、しばらくすると侍女がやって来て部屋へと案内された。案内の途中で外の景色が少し見えたがどうやら此処は城のようであった。まあ国王がいる時点でそんな感じはしていた晴人であったが実際に見るまで確証はなかった。部屋へと案内されて侍女は用があればお呼びしてくださいと言って部屋から出て行った。晴人はまずベッドまで歩いていきそのままうつ伏せのままベッドに倒れこむように入った。そして、これまでの状況を可能な限り整理した。
「・・・さて、そろそろ説明してもらえる?」
そして、一度立ち上がりベッドに座り直して目の前にいる少女に問い掛けた。そこにはずっと黙りながらついてきた白の女王がそこにいた。
「・・・・」
白の女王は黙ったままでいた。本来なら突然異世界に呼び出されて帰ることもできないと言われたのであるから怒ってもいい筈ではあるが怒ることが出来なかった。何故なら、
「・・・グスッ・・・」
目の前で今すぐ涙が溢れそうなのを堪えてこちらを見つめ続けていたからだ。
「ごめん・・・なさい・・・」
そして、消えそうな声ではあるが謝罪の言葉を紡いだ。そして、限界だったのか涙がポロポロと溢れ出てきてしまっていた。
「(はぁ・・・こんな顔されたら怒るに怒れないや)」
晴人は怒ることを諦めて立ち上がり彼女を抱きしめた。彼女の顔が晴人の胸まで接近して驚いたがそのまま彼女の頭の後ろに手が置かれてポンポンと優しく叩いたのであった。
「まあ、落ち着くまでこうしてあげるから。」
「・・・・・は、はい・・・」
そして、暫くしてると彼女から大丈夫と言われて晴人から離れた。見るとまだ涙は浮かんでいるが先程よりかはマシになっていた。
「本当にごめんなさい。訳もわからずこの世界に呼び出してしまって。そして、今の私には頭を帰す方法がなくて。」
どうやら、晴人の事で罪悪感を持っていたのだ。クラウス達の前では白の女王としての威厳を保つ為か平然を装っていたようであった。
「それはいいよ。それで、なんで俺なの?」
晴人の知りたかったのはまずそれだ。何故、この世界の人ではなく晴人が彼女のマスターに選ばれてしまったのか。
「ごめんなさい。理由は今の私には分からない。私には今すぐ目覚めないといけなかったみたいでその為には世代継承。そして、マスターの存在が不可欠だったの。」
彼女が言うには先代の白の女王が今すぐに目覚めないといけなかったみたいだが自分自身は目覚める事が出来なく世代継承して更にマスターと契約すれば目覚める事が出来るようでその為に晴人を呼んだらしい。
「私の存在はまだ不安定でマスターがいなければこうして立っていることも出来なかった。でも、何故私が目覚めなくてはならないのかやマスターを帰す方法は先代によって継承されなかった。いえ、わざと継承されなかったの。」
どうやら彼女は肝心な部分の継承をされていないようであった。あるのは自分が白の女王である事。そして、何かをしなければならない事。しかし、その何かは分からずじまいであった。
「・・・全く、性格の悪い先代さんだな。」
おそらく彼女がここまで罪悪感を持っているのは先代の白の女王ではないが存在そのものは先代白の女王といっても変わらないからという事。そして、本来ならば与えられる知識を与えられてないという事で自分が不甲斐ない。又は、なにも力になることが出来ないという事も合わさっているのであると推測できた。
「まあ、なってしまったものは仕方ないよね。それに、君がそんなに気にする必要はないよ。だって、先代ではないんでしょ?」
「でも、私は先代とあまり変わりない・・・」
「全然違うよ。」
彼女の言葉を晴人は割り込むように言った。
「君は先代の白の女王じゃない。君は君だ。だから、君が気にする必要がない。帰れないのは本当に辛いけどでも、絶対に帰れないんじゃないんでしょ?」
「はい。今の私には分かりませんがそう言った術には必ず反対の性質を持った術が存在する筈です。」
つまりは帰れる方法が必ずある筈という事であった。それなら希望はある。そう思った晴人であった。
「なら、その方法を見つけないと。それに、君がやるべき事もね。」
そして、暫く共にいるだろう少女の事を見ていて1つ思い出したことがあった。
「え〜っと、取り敢えず暫くよろしくって事と。後ごめん。君の名前・・・」
そう。よくよく考えたら彼女の名前を知らなかった。流石に白の女王という事ではないだろうし訪ねた。すると、
「・・・ないです。」
「へ?」
「名前はまだないです。私はまだ生まれたばかりなので名前がありません。なのでマスターが決めて下さい。」
突然の事で戸惑ってしまった確かに彼女は生まれたばかりの存在ではあるが名前も受け継ぐことはないみたいだ。どうやら精霊にとっても名前というのは自分を表すものであり世代を超えた場合新たな存在として確立させる為に名前も新しくするようであった。
「えっと・・・」
晴人は悩んだ。急に名前を付けてくれと言われたのでこれまでペットに名前を付けるとかはあったが人に名前を付けるなんてあだ名以外にしたことは無いのだ。当たり前だが。
そして、少し悩みながら彼女の容姿を見て彼女の目を見て思った。晴天の青空のような蒼色の瞳。見つめていると自分が空の上にいるかの様な錯覚を覚える。そして、自分の中で彼女に合っているかは分からないが1つの名前が浮かび上がった。
「・・・ソラ。君の名前はソラだ。」
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