秋
ある晩秋の朝
この頃、朝は布団を深く被るようになった。
それは今日も変わらずに、目を覚ましてから心の内で穏やかな決意を繰り返した後に起き上がってカーテンを開けてみると、窓ガラス越しに、紅葉した葉が落ちて少しばかり寂しくなった公園の木々が目に留まった。
昨日は酷い雨であった。その所為か、赤黄と熟した多くの葉が、公園の地面や道路のアスファルトに落ちている。その様はどこか物寂しく、この寒さと、この物寂しさは、私に冬の影を落とすようだった。
一方、目を上に運んでみると澄んだ青空が広がっていた。昨日の雨は、熟した葉を地に落とし、快晴を齎したらしい。
外は寒そうだ。しかし、こんなにも天気が良いのは数日ぶりのことであった。ちょうど珈琲を切らし、朝食も何もなかったため、私は散歩がてら、珈琲とパンか何かを買いに外へ出ることに決め、コートを羽織ってアパートの玄関を出た。
頬を冷たい風が撫でて行く。真冬に吹き荒ぶ、あの刺すような風ではないが、しかしコートの襟に思わず顔を埋めたくなるくらいには冷たかった。
道中、ジョギングをしている人や、私の様に散歩をしている人、朝からどこかへ出かけるのか、リュックサック何かを背負って歩く家族とすれ違う。
車一台が通れるほどの道に入った所で、今度はトープードルを連れた女性を見かけた。その女性は道の端に屈み、何かを指さし「ほら、ほら」とトイプードルに話しかけていた。
私は何かと思い、その女性が指さす先に目を向けてみると、そこには一匹のカマキリがいたのであった。私は何だか、その様子が微笑ましく思えた。私は立ち止まることなく、そんな女性とトイプードルと、カマキリとすれ違った。
ものの数分で目的の場所にたどり着き、目当てのものを買った私は、来た時と同じ道を歩きアパートへ帰る。
大きな道路を横切る際、有り難いことに一台の車が私に道を譲ってくれた。私は軽く頭を下げ、やや小走りに大きな道路を横切る。
私に道を譲ってくれた車は、奇遇にも私が曲がった道を曲がって行き、私を追い越していった。
道中、一匹の猫とすれ違った。店を開け始めた店主を見た。
先ほど、道の端で屈んでいた女性がいた場所に差し掛かる。まだ女性とトイプードルはいるだろうかと思ったが、そこにはすでに女性とトイプードルの姿はなかった。
清々しい朝だと思った。
しかし、そんな心に冬の影は落ちるもので、ふと視線を地面に向けると、潰れ、無残に死に絶えたカマキリがそこにあった。
昨日の雨は、熟した葉を地に落とし、快晴を齎した。
秋と冬の狭間。晩秋とはこういうものかと、潰れたカマキリを見て私は思った。
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