春風

 長い冬は去った。



 春を告げる暖かく強い風が、冬を吹き飛ばしたのだ。

 春を告げる風は、別れを告げる風である。

 春を告げる風は、僕を名すら知らぬ遠くの場所へ運ぶのだ。



 仲間が一人、また一人と風に乗る。

 古巣を離れ、遠くへ飛ぶ。

 旅立ちは避けられぬ。

 別れは避けられぬ。

 それがこんなにも悲しいのだ。

 仲間が一人、また一人と風に乗る。

 ああ、いつまでもしがみついていよう。

 ああ、こんなにも悲しい。



「悲しむな。お前も旅立つのだ」

「嫌です。こんなにも悲しい」

「ならば、一度だけ振り返れ。私を信じろ」



 しがみついていた枝が、激しく揺れる。

 ビュウビュウと、風が僕の背中を押す。



 僕は耐えきれず、とうとう突風に体を突き上げられて高く飛んだ。

 青々とした空が僕を包む。

 この広い世界で一人きり。



 寂しく、悲しい。

 寂しさと悲しさから振り返ると、そこには僕が育った大樹がある。

 上から古巣を見て、僕は初めてあの場所がどのような場所であったのか分かった。



「お前は種子である。お前はお前の場所を見つけ、いつか私のように根付くのだ」

「お前の幸福を、いつまでも願っている」



 もう二度と、かつての時間を過ごすことはできないのでしょう。

 さようなら、この悲しみを避けることなどできないのでしょう。

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