彼方への手紙
あれから五年が経とうとしています。そちらはいかがお過ごしでしょうか。
なんて、少し堅苦しいかな。どうも久しぶり。元気? 一応こっちは元気にやっているよ。
前にこうして手紙を書いたのは一年ちょっと前くらいかな? 確か高校を卒業するときだった気がするよ。
それから東京に出てもう一年。こっちでの生活にも慣れたからこうして手紙を書いています。
やっぱりこっちの暮らしは向こうとは全然違う。まず人が多い。休日の駅なんて本当に人ばっかりで驚いた。
あと、やっぱり色々なお店があるかな? なんでもそろってる。
色々と周りの環境は変わったよ。たまに寂しくなる時があるけど、そのたびにアルバムとか見て君と過ごした日々を振り返っています。
あ、それと今度、夏にそっちへ帰る予定があるから花束とかお菓子持っていくよ。東京のお菓子、いつだったか都会のお菓子食べた~いなんて言っていたもんな。
本当、あれから五年。早いもんだね。君も、もしもこっちに来るなんてことがあったらまた会えることを祈っています。
あとそれと、最近アルバイトを始めたんだけど、そこで君に似た子を見つけたんだ。本当にびっくりした。なんか、色々思い出しちゃって……。
恥ずかしいんだけど、それでそのお客さんの前で少し涙ぐんちゃってさ。でもそのお客さん、僕のことを本当に心配してくれたみたいで、優しかった。
うん。今回はこのくらいで筆を置くとするよ。
それじゃあ、今年の夏に。東京のお菓子、楽しみにしててね。
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冬も過ぎて春がやって来たこの時期。窓の外から見える桜の木は次第に緑が強まっている。あと少ししたら気温もすぐに高くなり、あっという間に夏が来るのだろう。
僕は約一年ぶりに書き上げた手紙をもう一度読み直し、変なところがないか確認した後、その手紙でいつものように紙飛行機を折った。
僕は折った紙飛行機を持って、最近見つけたこの付近で一番空に近くて風の強い場所へと向かう。
今日は雲一つない真っ青な空が広がっている。風も吹いているから、きっとこの紙飛行機も君の元へ高く遠くへ飛んでいってくれるだろう。
「ふ~~……」
この空の向こう側。彼方にいる君に届くことを祈って、僕は手紙を放つ。
手紙は風に乗り、ぐんぐんと進んでいく。次第にその姿が見えなくなった。
「…………」
空は青い。僕ももうすぐ大人になる。
「…………ありがとう」
その場を後にしようと歩き始める。すると急に風が強く吹いて、なんだか君が背中を押してくれたような気がした。
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