虹の彼方
ある街のはずれに、誰も近寄らない森がありました。なぜならばその森は呪われているからです。
ある人はこう言いました。なんでも、一度その森に足を踏み入れた者はその体を木にさせられ、森の一部になってしまうそうです。
またある人はこう言います。森の中にはある一人の女性がいて、その人が森に入ってきた人を食べてしまうそうです。
色々な人が色々な事を言います。でも、そのすべてに一つだけ共通点がありました。それは、一度森の中に入ってしまえばこの場所に戻っては来れないということです。
僕はそのすべてを信じることはできませんでした。自分の目で見たものでないと信じることができないからです。
だからこそ、僕はその森に足を踏み入れました。
まだ昼間なのに森の中はとても暗くて、時より聞こえてくる木々のこすれる音に体をビクつかせながら奥へと向かって行きます。
しばらくすると、一軒の木でできた家が姿を現しました。その家のある場所だけは、なぜか太陽の光で明るくなっていて、とても暖かかったです。
僕はその家の玄関をノックしました。すると、一人の髪の長い女性が家から出てきました。
「あら、君はどうしたの?」
急な質問に困ってしまいましたが、しかし僕は答えます。
「街のみんながこの森は呪われてるっていうから、自分の目で確かめに来たんだ」
そういうと、髪の長い女性はこう言いました。
「そうなのね。じゃあとりあえず家におあがりなさい」
僕はその言葉にうなずき、女の人の家に上がりました。
家に入った瞬間、僕はとても驚きました。部屋一面、本で埋め尽くされていたからです。床から天井まで、本でいっぱいでした。
「このたくさんある本は何なの?」
僕がそう尋ねると女性は答えます。
「これはね、私にとっての宝物なの。私に色々な世界を見せてくれるのよ」
僕はその答えを聞き、とても気持ちがたかぶりました。僕は、この世界での生活に飽き飽きしていたからです。もしかしたら、この森の中に入ったのも、そんな飽き飽きした日常を終わらせたかったからかもしれません。
そんな風に考えたら、僕はこの本たちを読みたいと思いました。
「僕もこの本、読みたいな~」
「それは無理かもしれないわ。この本たちは私にしか読むことができないの。それに、まだ完結してない本たちもたくさんあるからね」
「どういうこと?」
すると、女性は一冊の本を僕に見せてくれました。表紙には見たことがない文字、中身も見たことがない文字で埋め尽くされていたのです。
「無理そうでしょ?」
「うん……でも、これだけは教えて、そのタイトルはなんて言うの」
「そうね~これは名前って言えばいいのかしら」
「名前?」
その単語を、僕は今まで聞いたことがありませんでした。そんな僕を見かけてか、女性は話します。
「あなたはこの世界での生活に飽き飽きしているのかしら」
「え? どうしてわかったの」
まるで僕の心の中を覗いたように、そう言いました。
「わかるわよ。私はこの世界全員のことを知っているもの」
「どういうこと?」
「詳しくは知らなくてもいいわ」
と、はぐらかされてしまいます。
「とにかく、あなたはここでの生活に飽き飽きしている。だからこの本を読みたいって思った。違う?」
「そうだよ」
すると、女性は笑みを浮かべて、今度は違う、もう一冊の本を持って来てくれました。
「この本をあなたにあげるわ」
「え……でも……」
その本にはまだ何も書かれていませんでした。ページはすべて真っ白なままです。
「この本にこれからのあなたを書き刻んでいくの。この世界とは別の世界で、あなたは生きていくの。そこはとてもつらい場所かもしれないけど、それ以上に楽しいことが待っているわ」
「本当?」
「ええ、この家を出て、虹の橋を渡った先にそんな世界が待ってるわ。あなたがその世界に初めて現れたとき、あなたは名前を授かるの」
「その名前が、この本のタイトルになるんだね」
そういうと、女性は微笑みました。
「じゃあ、行ってらっしゃい。あなたの物語、楽しみに待っているわ」
「うん!」
そして僕はその本を持ち、心を高鳴らせて、この森の先にある虹の橋を渡りに行くのでした。
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