謎の怪物
「アルトナーさん、お願いします」
情報を集めるにも力が必要である。
実戦経験を詰み、ついでに何か情報はないかとクヌートは身分を隠し雇われ兵をしていた。
王である実の父親は寛大すぎるところがある。悪くいえば適当、というか‥‥クヌートが身分を隠し雇われ兵をする、と申し出ると録に理由も聞かずに嬉しげに言うのだ。
「クヌート、お前も一国を背負う覚悟が出来たか。実戦経験を積めば大きく成長する事だろうよ、ぜひ行ってきなさい」
なんと楽観的な‥‥と多少呆れてしまったが、こちらとしては好都合であった。ラインハイトを城に匿い手当てをしていた時もそっと影で応援してくれていたらしい。親馬鹿か、俺の父上は。
本来ならば記憶が曖昧であるラインハイトは城に匿ったまま、連れ出すつもりはなかったが情報を集める為だと知るとクヌートを1人で危険な目に合わせることは出来ない、と無理矢理着いてきた。
少しだけ期待していた半鳥人の仲間たちはやはり見つからず、
半ば諦め気味の二人に雇い主は声をかける。
「夜な夜な奇妙な足跡が家の周りをうろついているんです。蛇のような‥‥ほら、これです」
「‥‥怪物には違いないな。何かを狙っているのかもしれない」
クヌートがそういうと、ラインハイトは首を傾げる。
「でもさあ、ちょっと変だよね?なんで家の中には侵入しないんだろ。鍵がかけてあっても怪物ならイチコロだろ」
「そうなんです。そして昼間には現れないんです。実害は今のところないんですが、なんだか気味が悪くて‥‥どうか倒して頂けないでしょうか。報酬は弾みます!」
「とりあえず‥‥今夜は外で見張りをします」
確かに雇い主の家をぐるりと囲むように何かが通った跡はあるが、畑が荒らされた形跡もなければ家が傷つけられた様子もない。
雇い主には一人娘がいるらしく、娘の寝床辺りを特にうろついている様だった。
「女の子を狙う怪物なのかな?」
「それか怪物の怒りに触れるようなことをしてしまったか、だな」
「そっか、あの、雇い主さん。娘さんに話を聞いてみることはできますか‥‥?」
「はあ‥‥構いませんが、娘は少しばかり人見知りで‥‥」
通された部屋にはローブを羽織った、10歳ほどの少女がいた。微かに翠に光る肩につくくらいの髪と、金色の目が印象的だ。
「は、羽……天使?」
少女はそう呟くとラインハイトを見つめた。
18になったラインハイトは、美しさはそのままに腰辺りまである白金の髪の毛を三つ編みにしていた。
「そんな大層なものじゃないよ。ただの半鳥人さ。君、名前はなんて言うの?」
「すごく……綺麗ね。私はローゼマリー……」
「あはは、ありがとう。ローゼマリーかあ。いい名前だね。ねえ、ローミ。家の周りをうろつく怪物に覚えはあるかい?」
「ううん、ないわ……でも数日前からずっと、気配は感じるの」
部屋には小さな窓があり、針金を折り曲げた様な気休めの鍵がかけられているだけだ。
「なにか、怒らせるような事は?態とではなくても、もしかすると……」
「いいえ……ありません、この部屋からあまり出ないから……」
後から入ってきたクヌートが話しかけると、少し怯えたように目を伏せる。いつもの険しい表情が少女を怖がらせてしまったのかもしれない。
「今日は外で見張ってるから、安心してね」
「あ、あの……一つだけ、いいかしら」
「なんだ」
「えっと……怪物は多分綺麗な物が好きみたいなの。綺麗な物とか、綺麗な人とか。だから天使のあなた……気をつけた方がいいわ」
「えっ?う、うん。わかった。あとオレはラインハイト。さっきも言ったけど天使じゃなくって……」
「ローゼマリー、こいつは半鳥人だと先程……。ところで綺麗な物が好きとは?何故わかるんだ」
「……ラインハイト。それとあなたは?……真面目なあなた」
ローゼマリーはクヌートを見ると顔を顰められたので、その後にごめんなさい、と続けた。
「ええと、綺麗なものが好きっていうのは、数日前の夜、この部屋で森で拾ってきた石を眺めていたんです。とっても綺麗な石で、炎に透かすと黄金色に光って……そうしたら急に窓の外に気配を感じて。ギョロリと光る、たぶんあれは怪物の目ん玉よ。こっちを覗いていて、怖くてその石を外に放り投げたら石の周りの2、3度回って、拾って帰って行ったの」
「石が目的とかそういうことかな……?」
「わたしも最初はそう思っていたけど多分違うわ。石を投げた次の日から、夜の間だけずうっとこの家の周りをうろつくようになったの。でも目的はわからない。キラキラしたものが好きっていうことしか……」
「ふうん?」
綺麗なもの好きの怪物は、何故だか家の中には侵入してこない。
なので家の中で待っていた方がいいですよ。と言われ、部屋の中で気配が現れるまで待たせてもらうことにした。
「ところで、……俺の名はクヌートだ。クヌート・アルトナー」
「え?」
「さっき聞いたから、ね?クヌートこう見えてとっても優しいんだよ。クヌートって呼んでいいよ」
「ああ、それで構わん」
「クヌート‥‥様」
歳より大人びて見えるからか(とは言ってもラインハイトも歳相応だが)何故だか様付けで呼ぶローゼマリーに、ラインハイトがええーオレは呼び捨てなのに?と拗ねた振りをする。
彼の親しみやすい性格からか既に打ち解けているらしく、ラインハイトはいいの。と笑った。
和気あいあいと雑談をしていると、ふと蝋燭の火が揺れた。窓も開いていないのに、ひんやりとした空気が部屋に入り込んでくる。
「来ました、今‥‥いつもの気配が」
「外に回るぞ、ラインハイト」
「うん」
気配を感じるや否や、立ち上がった二人にローゼマリーは焦った声をかける。
「危ないわ、家の外は‥‥!」
「大丈夫。ローミは戸締りきちんとして!そこから動かないで。これ、お守りになるから」
そっと自分の耳飾りを片方渡すとラインハイトはクヌートの後を追った。魔力の込められた耳飾りは簡易的な結界になっているらしく、ローゼマリーの気配を読み取れなくなった怪物は部屋から離れたようだ。
「あまり無理はするなよ、ラインハイト!後援を頼む」
「任せて、クヌートも無理しないで」
外に回り込むと壁の角にサッ!と走っていった影を認める。
足は蛸の様にも見えた。
「何あれ?蛸かな?」
「蛇の様にも見えたが‥‥足止めするか」
クヌートはシャキ、と大剣を構えると力いっぱい地面に突き立てる。すると地面は一直線に割れて影を追った。
「逃がさん」
「クヌートすごいなあ!ようし、オレも」
割れた地面に足をとられ、一瞬動きを鈍くする怪物にラインハイトは歌を歌う。
幻術だ。
クヌートは慣れたように自分の耳を塞いだ。
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