俺=ムニキス

徐々に近づく、きらびやかな帝都サンクチュアリーは、今では目の前に感じるほど近くなっていた。

そして、長いトンネルをくぐり抜け、俺の視界を拒んでいた暗闇が明るく開く。

そして、次は聴覚を刺激する。


「こちら、西都アクチュアリー発、帝都サンクチュアリー行き、はまもなく到着いたします、お降りの方はお忘れ物のないように、落ち着いてご確認されるよう、よろしくお願い申し上げます」


行きの際とは違い、今度は男の声だった。やはり機械が言っているのか、やけに声が高いような気がする。(まぁ、どうでもいいんだけど)

俺は、アナウンスの言う通り、忘れ物がないように回りを確認する。

と言っても、荷物のほとんどは、席の上にある簡易ロッカーに置いてある大きなリュックサックに殆ど入っているし、今持っている物は、右ポケットに今では古いタイプ携帯電話と左ポケットにはペパミントのスティックガムと小銭ぐらいだ。ガム食べよ。

とりあえず忘れ物はないようだし、後は落ち着いて待つだけだ。

そして、俺は、深くイスに座る。


ズゥドオォォォォーーーーーーーーン!!!


突然の爆発音に、電車内の乗客はパニック状態と化した。

俺だって最初はパニクった。でも、他の皆と何が違うのやら、すぐさま平然を保てた。

爆発音は多分後ろのほうからだ。

乗客の声はどんどん大きくなり、絶叫のようにも感じれる。やはりそれほど恐ろしいのだろう。自分の知らない危機が押し寄せてくるのだからそれはそれは怖いだろうな。

そんな乗客を落ち着かせようと、甲高いアナウンスが響き渡る。


「お客様へご連絡です!本機は現在、最後尾の連結車両であるモーター制御車両がオーバーヒートにより発火し、火が上がったら状態となっております、風の影響で直接連結している八両目の車両に燃え移る可能性もあるので、八両目にご乗車のお客様は、駅員の案内にしたがって落ち着いて、七両目へとお移りいたしますようお願い申し上げます、七両目のお客様は………」


先程のアナウンスが、焦った感じで発している。機械じゃなかったのか。

そんな些細なツッコミをこなしながらも俺は聞いているが、回りの皆はどうだろうか、聞くはずがない。

皆、自分のことで頭が一杯で、アナウンスなんて耳にすら入らないだろう。「落ち着いて」なんて、何の効果も持たない。

俺は、この状況をどうするかなんて考えない。

だが、俺は席を立っていた。

そして、騒ぎ立て慌て回る乗客を押し退けて、車両を移るためドアへ向かう。

ここは5車両目だっけ、なら次は6車両目だな。

ドアを開くとすぐさま違うドアが見える。そして、そのドアに出かける。

開くとそこには、先程までいた5車両目と同じ景色が広がっていた。乗客が騒ぎ立て慌て回る。そして、そんな乗客を押し退けて進んでいく。

六車両目から七車両目。そう移るため俺は、向かう。

そんな俺を見て、乗客は何を考えたのか六車両目の乗客は、すぐさま5車両目へと向かう。きっと、火より、危険より、より遠いところに向かうためだろうか。

俺は、5車両目へ向かう皆と逆の方向へ行くのだからそれはそれは目立つ目立つ、と思ったのだがそんな俺を見る人なんて誰もいない、皆自分のことで頭が一杯だから。(あ、これ二回目だな)

俺は、深く溜め息をはいて、ドアを開く。

そして、また同じ、いや今まで以上の光景を目にする。危険から一番近いからか、それとも八両目の乗客が押し寄せて来るから、それとも両方か?

ドアを開き出てきた俺を見て、六車両目と同様、七車両目の乗客も焦りと混乱をのせて六車両目へと駆け込む。これはきっとより多くの混乱が巻き起こるだろう。

俺は少し気を急がせた。

そして、七車両目から八車両目へと向かうがドアはすでに開いていた。

そこには駅員さんと、少ない乗客が残っていた。

駅員さんも乗客も皆焦っている。

それもそうだ、これほど熱いのだから。結構近くまで火が来ているのだろうか?

そんな状況判断をしている俺に気づいた男が声をかけてきた。服がしっかりしている、この人が駅員さんだろうか?


「君!アナウンスを聞いていないのか?速く下がるんだ!もうすぐこの車両も……」


ドガァァーーーーン!!!!!


駅員が喋っている間に、八車両目と最後尾の問題火災車両を挟んだドアが勢いよく爆発した。ガス爆発だろうか、本で読んだことがある。

その爆発を機に、火がこの八車両目にも移ってきた。

先程まで騒いでいた乗客はより大きい騒ぎを立て、我一番と急いで七車両目へと向かう。


「おい!君も速く下がるんだ!火が来ているのわかっているのか!?」


駅員が俺に向けて言う。焦りからか、それは注意ではなく怒りにも聞こえてくる。焦りは人を壊すのか?

怒鳴る駅員に、落ち着いた俺は質問をする。


「なぁ、八車両目から後ろは俺たちだけだよな?」


駅員は、何を聞いているのか?のように間抜けな顔をして、答える。


「そ、そうだが…それがどうしたって言うんだ!」


その答えを聞くと、俺は少し気合いをいれる。

そして、駅員の誘導にしたがい七車両目へと向かう。

ドアを開くと、そこには人が詰まったように混雑した光景があった。

乗客は追ってくる炎を目にすると、叫び声や、泣き声等感情がこもった声が大きく、騒がしくなる。

俺は、それを見て覚悟する。はなからこの為に、わざわざこんな危険なところまで来たんだ!ここで挫ける訳には行かないだろ。

俺は、左手に付けていた黒い手袋を外し、その左手を、八車両目のドアに触れる。少し熱い。


「おい!君はさっきから何をしているんだ!死にたいのか!?」


やはり駅員が俺を見つけて怒鳴る。さすが駅員と言うべきか、こんな状況でも、乗客の身を按じてくれるなんて、今時は素晴らしいな。

そんな、戯れ言を糧に駅員の言葉を無視して、俺は、集中する。

目標と、明確なイメージを想像して。

そして……滅す。


「ターゲット、炎を上げる八車両目から後ろとする、消え去れ!…」


俺は、この力が嫌いだ。願いが叶うならこの力を、忌々しい左手を消し去りたい程だ!

でも、神様はそんな俺の願いに聞く耳すら立ててくれない。

ならば、そう!ならば!この力を使ってやる!使いに使って、熟知し、完全に制御して、俺は、この力で、あの人を………

そう、この力の名は!


「ムニキス!!」


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