俺=出発!!
俺は実の姉を殺した。
俺の左手で殺した。
姉は、俺にとっては家族以上の大切な人だった。
力を制御できない俺にとっての師匠のような人だった。
俺は姉が大好きだった。
唯一の家族であり、寂しい夜にも一緒に寝てくれた姉が、お姉ちゃんのことが、俺は大好きだった。
だけど、そんな姉はもういない。
歴史的な建造物と思わせる、古くさいレンガで積み重なった茶色い駅に俺、無神奏むがみかなでは居る。
「ピンポンパンポーーーン!五番線、ノンストップ、帝都行きはまもなく出発いたします、ご搭乗される方はお急ぎください」
まるで機械のように一言一句ハキハキと発音良く言う女声が伝えていたアナウンスは、俺が乗る予定の電車を指していた。
だが、そのアナウンスを聞いたときに俺は未だに改札口にいた。
俺は走る。全力疾走で階段をかけ下りる。
プゥーー!との高音と同時に電車のドアは閉まった。
「フゥー!ギリギリセーフ!」
俺は、ドアが閉まる間一髪のところで勢い良く飛び乗り込み、電車に乗り遅れることもなかった。
普通なら危険だと駅員さんに叱られるのだろうが、仕方無い!仕方無い!
ぐわっと、体が前から後ろに押される感覚が体に流れた。
なんとか足を器用に使い、体重を調整する。久しぶりの電車だからか、この感覚を忘れていた。なんだか懐かしい気持ちになる。
電車は重たい車輪を動かして、前に進む。
ドアの窓からは、遠ざかっていく駅のホームが見える。
まぁ、とりあえず自分の座るべき座席を探さなければ。
「2のF、2のF、2のF、あったここだ」
電車の中は大混雑と言うほどではなかったが、席が2、3席程しか開いていなかった。
だけど、俺の席にとってそんなのどうでもいいことだ!
2のFは、列車の窓側の席であり、陽当たりもさほど強くなく、暖かい程度のもので、窓を開ければ春特有の咲き誇る木花の香りをのせたそよ風が優しく吹いてくる。
そんな席に座れるぐらいなら、この騒がしさなんて本当どうだっていいものだ。
現時刻は二時半丁度。左腕にある腕時計がそう言っている。
帝都に最も安く行けるこの電車に乗るために、街から最も遠いこの駅に来た。
この駅にたどり着くまで、俺は多くの時間と体力を失ってしまった。
だから、もう眠いんだよ。
この電車は直行便だから、終点には気づくだろう。(気づかなくたって、親切な誰かが起こしてくれるはずだ!そう信じておこう)
俺は、気持ちのよいそよ風と暖かさに包まれ、瞼が徐々に落ちていく。
あれ……なんで…帝都になんて行くんだっけ?
俺は、眠りに堕ちた。
約百年前、太平洋を多い尽くすかのように何の前触れもなく出現した黒霧と、その黒霧から涌き出るように現れた凶悪な魔属らによる大災害、通称黒霧現象。
その現象は、人間に大きな絶望を与えた。
その証拠、黒霧現象による被害者加え志望者を数えると、その数、全世界の総人口の4分の3程だ。
それに加えて、ビル、家、会社、ショッピングモール等、建物は愚か、世界各国の国会や裁判所、銀行や大きな発電所も全て、魔属の手により荒らされて、壊されていった。
だが、そんな絶望の幕を閉じる者が現れた。
それは、魔属が現れ横暴な行為をし続けて3日目のことだった。
陸、空、海軍、自衛隊、各国の発明家があの手この手を使ってもどうすることも出来なかった、あの黒霧が一つ残らず消えたのだ。そして、ある男の情報が広まった。
その名も、黒ローブの男と。
彼を見たものも多く、一説では彼がこの惨状の原因だと言うものもいるが。一つ事実に近いことを語るとするならば、おぞましき黒霧を消し去ったのは、黒ローブの男だと言うことだ。
それは、何人もの「見た」という証言がある。
とあるアメリカ人は、黒霧を吸い込んだと言い、またとある中国人は、魔属と共に黒霧に帰っていったといい、そして、またとあるオーストラリア人は大陸周辺の黒霧を一瞬で消滅させたとも言った。
このように証言は、多種多様、十人十色で何を信じれば良いのかもわからない。
しかし、それらを全て合わせて共通するのは黒ローブの男が、黒霧を消し去ったと言うことだ。しかし、その噂が指す黒ローブの男は、黒霧を消し去ったあと、姿をくらまし、その後、黒ローブの男を見た人は誰もいなかったという。
黒霧が消え、それからというものも、地球に残った化け物たちは、海や山に逃げたものもいるが、ほとんどが武器を持つ軍や自衛隊に倒され駆除された。
だが、人間達に残されたのは、汚染された土地や海、徐々に減りつつある食料、魔属に殺され、全国総人口4分の1まで少なくなってしまった人間、こんな絶望下では、もう人類が立ち直ることは不可能と皆が思っていた。
そんな時、神は人間に微笑んだ。
黒ローブの男の時のように、とある噂が世界中に流れた。
不思議な力が使える者が現れたと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます