第5話 さようならお星さま

「お星さま、ごめんね。一緒に行けなくて」


――構いません。私は無人の探索機です。人間が宇宙空間で生きていけるような構造をしていません。


「それでも、ひとりぼっちにさせたくないの」


――私はひとりぼっちになるのですか。


「……」


――ひとりぼっちはいけないことですか。


「うん。寂しいよ。辛いよ」


――私は、周回軌道に乗った後、宇宙センターや地上の各地観測地点と交信を行います。また、常に地上の状態をモニタリングします。寂しがるような時間はありません。


「……うん。そうだよね。ごめんね、変なこと言って」


――貴女が「変なこと」を言うのは、いつものことです。


「うん、そうだったね! ね、私が教えた歌とか、お話とか、覚えてる?」


――はい。すべて記憶領域に保存してあります。指示通り、チーフおよび他の研究員に見つからないよう、バックアップも保存してあります。


「よし! よくやった! おりこうさん!」


「じゃあ、もし、寂しくなったら、その歌、歌ってね。きっと誰かに届くから。きっとだよ」


――了解しました。


「ねえお星さま。もし、もし歌を歌っても、お話を語っても、どうしても寂しいときは……地球に降りていいからね」


――大気圏の突入は任務完了後の予定です。また、私の機体は大気圏で焼き尽くされ、地上に降り立つことはありません。


「うん。そうだった。ごめん。ごめんね」

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