第3話 うさぎ

 ミサキが小学5年生のときに生き物係に任命された。

 正直やりたくはなかったけれど、友達のシオリがやりたいっていうから一緒にすることになった。

 放課後、ミサキがシオリに話しかけた。

 「生き物係って金魚の水を変えればいいんだっけ?」

 「それもだけど、ウサギ小屋の掃除もあるよ」

 「そうだった」

 掃除をするのかと思うと、ミサキは憂鬱な気分になった。

 今日は見たいテレビもあるし帰りたいな。

 「明日やろうよ」

 シオリと約束をし、ミサキは家に帰った。



§§§



 グランドのネットを挟んで向こう側に、花壇やウサギ小屋がある。

 百葉箱もあって、授業で温度を見たりしたことがある。

 暇なときミサキは花壇の脇に生えている草を、網の外からウサギに食べさせたりしていた。

 

 ウサギが小さな口を動かして草を食べる様子が可愛いな、と思ってミサキはその様子をボーっと見ていた。

 そういえば今日はウサギ小屋の掃除のために来たんだった。

 シオリが遅れてくるから、ミサキが職員室から鍵を借りて先に来ていた。

 いつものようにウサギに草を食べさせながら、目的を思い出した。

 

 ふと見ると奥のウサギの下に、肌色のかたまりがあった。

 ウサギの赤ちゃんだった。

 いつの間に出産したんだろう。

 でも、動いてないし大丈夫かな?

 

 鍵を開けて中に入ると、知らない女の子がしゃがみこんでウサギの赤ちゃんを見ていた。

 さっきまでいなかったと思ったけど。

 「あなた誰?」

 ワンピースの少女は答えず、立ち上がる。

 その両手の上にはウサギの赤ちゃんがいた。

 「ねえってば」

 ミサキが話しかけると、そのまま奥に歩いて消えてしまった。


 「ミサキちゃんどうしたの?」

 シオリが掃除道具を手にやってきた。

 「さっき、女の子がいたんだけど、消えちゃった」

 「えー?やめてよ。私そういうの苦手」

 「でも、いたんだって。白いワンピースの女の子」

 「そんな子がいたら目立つと思うけどなぁ」

 もうやめようと、シオリが言って、ミサキはそれ以上このことを話すことはなかった。

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