第2話 いんく
ミサキは兄のプラモデルを見ていたが、机に戻そうとしたときに手が滑って落としてしまった。
「あ!」
ガチャンと音がして、ロボットの右手が取れた。
どうしよう。
これはとくに兄が気に入っていて、あまりに自慢するから近くで見てみたいと思ったんだ。
兄が小学校のプールから帰ってくるまでに時間がある。
ミサキはなんとか直そうと試みるが、小学2年生の手ではムリだった。
ドタドタっと廊下を歩く音がした。
兄が帰って来た。
とっさにプラモデルを自分の机の引き出しにしまった。
子ども部屋に兄が入ってきた。
「ただいま」
机にバックを置くと、ケイタはプラモデルに目もくれずリビングに行ってしまった。
ばれなかったかな?
ミサキはホッとしたらお腹が空いてきたので、兄の後について階段を下りて行った。
その夜、寝ようとしたら兄が探し物をしていた。
「おにいちゃんどうしたの?」
ミサキが聞くと、落ち込んだ様子の兄が答えた。
「大好きなプラモデルがなくなっちゃったんだ」
「今までで一番上手くできてたのに。家のどこを探しても見つからないんだよ」
兄に怒られるのが怖くて、ミサキは正直に話すことが出来なかった。
「わたしもみてないよ」
兄と目を合わせられず、ミサキはベッドに潜り込んで眠ってしまった。
§§§
翌朝起きると、兄が怒った顔でベッドの横に立っていた。
「・・・おはよう」
「おはようじゃない!」
兄の机には、ミサキが昨日机にしまった壊れたプラモデルが置かれていた。
「それは、」
「ミサキの机にあったよ。壊したんでしょ」
「ごめん・・・。」
「正直に言ってくれればよかったのに」
正直に言ったら怒るじゃん、って言おうとしたけどやめた。
「ごめんなさい」
とてもカッコよかったから見とれてて、壊すつもりなんてなかったんだけど。
怒っている兄の前では言い訳ができず、うつむいていた。
はぁっと大きなため息をつくと、兄はランドセルを背負い身支度を始めた。
「もういいよ。勝手に触らないでね」
どうしよう。怒ってる。
そんなつもりなかったのに。
「あの、なおそうとしたんだけど・・・」
ミサキの言葉に兄は答えず、ドアを開けて出ていこうとした。
「まって」
ミサキが兄の手を掴んで引き留めた。
「もういいって!」
振り払った手がきれいにミサキの鼻に当たった。
鼻から流れる血がインクのシミのようにミサキのシャツを赤く染めた。
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