あ行の少女
shima
第1話 あいす
電車が通るとセミロングの髪と、白いワンピースがはためく。
少女はうつむき加減のまま一点を見つめ動かない。
横からでは表情が見えないが、ケイタは駅のホームにいる少女が飛び込もうとしているように見えた。
少女が少し前に倒れそうになったので慌てて駆け出す。
「あぶ、」
危ない、と言おうとしたところで少女は消え、ケイタの右手は空を掴んだ。
隣にいたサラリーマンが怪訝な顔でケイタを見て、ばつが悪そうにケイタは次の電車が来るまで下を向いていた。
仕事が終わり、一人暮らしのマンションでビールを飲みながらケイタは考えた。
あの少女は何だったんだろう。
前にも一度同じことがあった。
確かあれは10歳の夏休みだったな。
§§§
小学校の夏休み。
学校でプールに入った帰り道にワンピースの少女と出会った。
「君もプールの帰り?」
少女は首を横に振った。
「ふーん」
「君のクラスは?」
少し困った顔をしただけで、答えなかった。
それ以上、ケイタは聞かなかった。
行き先が同じなのか、2人並んで歩いていた。
プール上がりの冷えた体に照り付ける太陽が暖かい。
駄菓子屋の前を通ったときに、ケイタが少女に話しかけた。
「君もアイス食べる?」
コクンとうなずいたので、彼女の分もアイスを買って、食べながら帰った。
どこで彼女と別れたのか分からないが、気づいたら家に着いてた。
そして、それから彼女と会うことはなかった。
夏休みで田舎に帰省して来た子なのかと思っていたから、今まで忘れていた。
でも、今朝見た少女はあの思い出の少女だ。
似ている、というのではなく彼女であると確信できた。
§§§
ビールを飲み終えて、甘いものが食べたくなったから冷蔵庫に向かった。
あれ?このアイス家にあったっけ。
白いホームランバーを手に取りリビングに向かおうとしたとき、トンっと背中をたたかれた。
え?
びっくりして振り向くと、少女がそこに立っていた。
そして、今度は彼女の方から話してきた。
「久しぶり」
突然背中をたたかれ心臓がドキドキしていた。
どこから入ってきたの?君は誰?
そんな言葉を言う前に、つい聞いてしまった。
「君はアイスの精なの?」
ふふっと少女が笑う。
「違うよ。迎えに来たよ」
彼女に手を引かれ、その拍子にアイスが下に落ちた。
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