第8話 線量計
次の日の朝、静香さんと別れた後、僕は一旦もう一度自分の家へ戻ることにした。原発の事を思い出したからだ。もし原発も植物によって浸食され破壊されていたとしたら、大変なことになっているはず。
福島第一の原発事故があってから僕は原発問題に関心を持っていた。家には、事故後に買った簡易型の安物ではあるが、空間線量計があった。それを取りに戻りたかったのだ。大量に放射能が漏れているのならそれで十分分かるだろう。
道端に繁茂する植物たちが、朝露を纏いそれを淡い朝日の光が照らし、キラキラと輝いていた。今まで脅威としか感じられていなかった植物たちも、今はなんだか、その生命の美しさを感じられるようになっていた。
やはり、不思議と食欲は感じなかった。昨日丸一日何も食べていないにもかかわらず、衰弱感も体の不調も何も感じなかった。むしろ、体が軽く、元気でエネルギッシュな感じさえした。お腹が減っている感覚はあったが何かを食べたいといった欲求は感じなかった。
「あった」
自分の部屋の押し入れを開けると、それはあった。
空間線量計の仕舞ってあった箱は朽ちてボロボロになっていたが、それを包んでいた二重にした厚いビニール袋は不思議ときれいなままだった。
ビニール袋を開け、遅る遅る電源を入れてみる。
「入った」
電源は入った。とりあえず動くらしい。
「厚いビニール袋が良かったのか・・」
僕はこの奇跡とも思える状況に、喜びと同時に驚きを感じた。
しかし、線量計の針は全くピクリとも反応が無い。事故後、この街にも放射性物質は大量に降り注いだ。部屋の中でも微量ではあるが、多少の反応はあった。
「やっぱり壊れてしまったのか・・」
僕はピクリとも動かないメモリを見つめた。
外に出て様々なところを計ってみるが、やはり、結果は同じだった。
「・・・」
やはり、壊れているのだろう。原発がこの状況で無事なわけはない。僕は手にしている線量計を道端に捨てた。
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