第7話野盗の実状
視界に入った時には、すでに姉妹達は追いつかれ、一人は頼りない木の枝を必死に振り回し、男は少女をあざ笑いそれをよけていた。
もう一人の幼い少女は、木の陰で泣きじゃくり助けを呼んでいた。
「ベリルお姉ちゃん!」
「リン!、逃げて!」
振り向いた隙に、業を煮やした男の拳が顔面をとらえる。
「かは・・」
「お姉ちゃん!!」
「このアマぁぁぁ!!」
すかさず男が少女の横っ腹に蹴りを入れ、少女は、木の幹にたたきつけられる。
「きゃああ!」
「手こずらせやがって・・このっ!・・このっ!」
男は、倒れている少女を力任せに、蹴りつける。
「うっ・・ぐうっ・・くふっ・・・・」
右へ左へと何度も転がり、最後には、うめき声をあげなくなった。
「はぁっ・・はぁっ・・・・やっと静かになった」
「お姉ちゃん!」
「うるせえーー!!」
「ひい!」
「このアマぁ・・・・あっちのガキは、担いで奴隷商にでも売りつけてやる・・・・だがこっちの女は」
ゆっくりと、うずくまる少女を値踏みする。
「あとで起きて騒がれても面倒だ・・・・」
男は、ゆっくりと腰から小ぶりのナイフを取り出す。
「あばよ・・・・」
「うぉおおおお!!」
「なっ!!!」
間一髪で男にタックルを浴びせること成功した。
二人まとめて地面に転がることになったがとにかくよかった。
「いつつつ・・・なんとか間に合った」
「よくやった!、さあ、早く立ち上がれ!」
素早く立ち上がり男を見る。
「ぐう・・・うお・・てめ~、どこから出てきやがった」
男もヨロヨロと立ち上がる
「・・・・」
男の獣のような目線と手に持ったナイフが恐怖心をあおる。
理性が吹き飛びそうだ・・・。
「落ち着け・・相手をよく見ろ・・」
エリオットのささやきがわずかながら冷静さをとりもどさせた。
そうだ、落ち着け!相手を冷静に見てみよう。
見てみれば、男は、すでに足に力が入っていなく、ぜえぜえと疲れ切っていた。
体もボロボロで顔は痩せこけ、腹だけは、出ていた。
野盗と言われもっとたくましいイメージをしていたが、実状は、食うに困ったすえ、人を襲うようになったのだろう。
「このやろ~・・・・ぬぁぁあああ!」
男がものすごい剣幕で襲いかかってくる。
「ふん!・・・ふぁああ!!」
「う、うああ!!・・・・くっ・・・」
最初足がすくんだがナイフ攻撃をなんとかよけられた。
落ち着いて相手との間合いをとる。
「ぐぅっ!」
腕を見てみると服が裂け大きく血がにじんでいた。
やはり最初足がすくんだ時避け切れていなかった。
「へへへ♪・・・・ぶっ殺してやる・・・・しねぇーーー!!」
「くっ!!」
振り下ろされたナイフを避け、その腕をなんとかつかむ。
くそ、こいつやたら臭う!!
「い!、この・・いてて!」
よし、力任せににひねったら、ナイフを落としてくれた。
「くそっ!・・このっ!・・話しやがれ!」
体にへばりついて、あばれる。
くそっ!やっぱり臭い!!
「この・・あ・ば・れ・る・なぁああ!!」
「うっ・・うぅぁあああ!」
くそっ、やっと離れてくれた、見よう見まねの払い腰が、決まった。
「ぎゃっ!・・つつつ・・・・このやろ~」
だめだ、もっと怒らせた!
「うああああ!」
「てめ~・・がっ!・・」
あわてて、男の顔を蹴り上げる、男は、うめき声をもらし倒れてくれた。
「はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・よ・し・・」
男が動かないことを確認すると木の幹に体をあずけ、大きなため息ついた。
エリオットも男の意識を確認すると、腹の上に登り、ぴょんぴょんと跳ねている。
「よ~し!、よくやった!さすがオレ様だな♪」
「オレ様って、お前・・何もしてねえだろ・・」
「何度も言わせるな、俺は、お前なんだ俺がやったも同然だ」
しゃくだが、こいつの言葉に救われた節はある。
もしあのとき、落ち着きを取り戻せず、対峙していたら、どうなっていたか分からない。
こいつの一言が冷静さを取り戻したのは、確かだ。
「おい、このままじゃ不安だ。何か縛る物を持ってないか?」
「縛る物って、着ている物以外なにもないぞ」
体をまさぐり探すも何もなくエリオットも困り始めている。
「・・・・!!」
ふと気づき幼女に声を掛けてみる。
「ねえ、何か縛る物持ってない?」
「!!」
ビクリとおびえた後一瞬木の陰に隠れたがすぐに駆けてきてくれた。いそいそと腰紐をほどき渡してくれた。
「ありがと」
そう言い終わると、パタパタと姉に駆け寄って行ってしまった。男を腹ばいに裏返すと、すぐに手首と手首をあわせ縛り、足もきつく縛った。
「お姉ちゃん!!」
幼女が突然叫び出す。
「おい、あっちもやべぇ~ぞ」
すぐに駆け寄り状態を確認するが、少女は、黙って苦悶の表情を浮かべるだけだ。
「こいつは、まずいな~・・肋骨が折れてるかもしれない・・」
「お姉ちゃん・・」
幼女も心配そうに声をかける、だが少女は、か細く息をするだけだ。
眉間にしわを寄せ、黙って歯を食いしばることばかりで、妹に返事することもできない
「おい!、すぐ村に運んで治療して貰うぞ」
「でも、そっとしておいて、人をよんだほうが?」
「ばか、こっちにゃ、救急車も病院もないんだ、荒っぽいが早く人に見せないと手遅れになる。
「わかった」
ゆっくりと少女を抱え込む。
「うっ!!」
少女の顔が一段とゆがむ、急ぐ必要があるがこれ以上症状を悪化させては、本末転倒だ。
「村の方も落ち着いただろう、急いで運ぶぞ」
「ああ・・、一緒に着いてきて」
そう言うとこくりと頷き自ら先導してくれた、少し前をゆきエリオットと一緒に警戒しながらも道案内してくれた。
絶対に助けたい、胸に伝わる少女の温かさが、自分の体温と混じる。
(同じ人間なんだ)
何もかもが違う世界で同じ物を初めて感じた。
聖樹杖物語「君を護りたい」 濵明之介 @3647
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