第6話「俺は、お前だ。だから俺の言うことは、絶対だ」

「ハァッ・・ハァッ・・」

 エリオットを追いかけて、ひたすら走る。

 視界に入るのは、電線の走ってない青空、大地に生い茂る若草。

 遮蔽物のない、青と緑のコントラスト。

 透明感のある空気は、吸い込むたびに体に活力を与えてくれる。

「元気が出てきたな♪」

「ああ」

「その調子だ、もう少ししたところに村があったはずだ。そこで一休みして、食料を分けて貰おう」

「いったい・・ハアハア・・俺たちは、・・ハアハア・・どこに向かってるんだ」

「王都セイバーンだ」

「セイバーン?・・王都!」

 王都ってなんだ!、王様か!

「そこでまず、王様に会う」

「会うって、できるのかそんなこと」

「さ~な」

「さ~なって」

「むっ・・ちょっと待て・・」

 そう言うとエリオットは、立ち止まり、耳をピンと立たせてあたりをうががう。

「まずい!隠れるぞ!」

 さっきまでっとちがうエリオットの表情が異常事態を伝えてる。

 エリオットの後を追い、近くの林の茂みに急いで隠れた。

「どうしたんだ?」

「しっ!、静かに・・」

 茂みの陰から顔を並べ様子を疑う。

 すると遠くからうっすらと土煙が舞っているの見える。

 次第に地面越しに地鳴りが伝わり土煙の中から馬が顔を出し始め徐々に背中に背負った人影が姿を現す。

「どうやら盗賊では、なさそうだな・・・・」

 エリオットの言うとおり、馬の背に乗っているのは、どれも甲冑や皮鎧を着ているものばかりっだった。

 隊列を組んで二番目の騎手が旗を掲げてる。綺麗に矢じり型に組まれた隊列は、見事なものっだった。

 先頭の合図とともに隊列は、今まで自分たちがいた場所に立ち止まった。

「気のせいか・・・・人影が?・・」

「見張りでしょうか?」

「いや・・馬の姿が見えぬ」

「では、鹿か猪の親子では?・・」

「むうう」

 先頭の隊長とおぼしき騎士を二人の騎士が囲み、何やら話し込んでる。

「あと少しで例の村だ。・・・・いくぞ!」

「はっ!」

 そう言って、たずなでピシリと馬体をたたくと、一頭飛び出し、すぐに後続の騎馬が後を追い、すぐさま隊列を組んだ。

「・・・・」

 エリオットと俺は、その場で隊列が見えなくなるまでじっとしていた。

「ふ~~、あぶなかった~」

「さっきのは?」

 茂みから体を出し、すっかり見えなくなった騎馬隊が向かう方向を確認する。

「さっきのは、セイバーンの同盟国のサーランの騎士団だな武芸で有名な国だ。人口もとても多く、街もでかい、闘技場もあるんだぞ」

「へえ~~」

「しかし、奴ら例の村といっていたな・・」

 エリオットは、黙りこくって騎馬隊の向かった方角をにらみつけている。

「俺たちも急ぐぞ」

 そう言ってエリオットは駆け出す。

「ちょ、まって、ネコやっぱはやー!」


――――――


 一時間ほど走ったか、すっかり汗だくになりながらも、エリオットの足になんとか着いていく。

「よし!この丘を越えた先だ」

 丘の先からいくつもの煙が上がっているのが見える。

「くそ!もう始まってる!」

「ハア・・ハア・・ちょっと・・ま・ってくれ・・」

 進むにつれ争い声と、馬の走る地鳴りが大きくなっていき、きっとこの先で起こっているであろう、凄惨な光景のイメージが、頭をよぎる。

「うっ!!・・・ああぁ」

 丘を上がると、その予想は、悪い意味で外れた。

 村は、川に沿うように大きく広がり、家屋などは、二十を超えていて丘の斜面に合わせ、盛り土をし、その上に平屋の家が建っていた。

 だがどの家も、半壊か家に火を放たれ、村人と野盗の死体が転がっていた。

「村人は、全員とは言わないが無事のようだ、おそらくどこかに避難したのだろう・・見ろ、半壊した家は、中を荒らされているだけだが、火を点けられた家の前には、住人だったであろう死体が転がっている・・家に立て籠もったところに火を放たれ、出てきたところをやられたんだ・・」

 エリオットの言うとうり、家の数に比べて住民の死体の数が少ない、火を点けられた家も二つだけだ。

 村はすでに野盗と騎馬隊の戦場となっていて、馬のひずめの地鳴りが野盗の悲鳴を飲み込んでいった。

「すごい!どんどん蹴散らしていく!」

「あいつらには、村を救うつもりなんて、もとから持ち合わせていないのさ、暇つぶしと、武功ほしさに、野盗を狩り殺しているだけさ」

 戦闘は終わりかけていた、エリオットの言うとうり、後は降伏する野盗を取り囲む騎士と、逃げるものを追い打ちする騎馬のグループが三つちらばっているだけだった。

「おい!あれを見ろ」

 エリオットの叫び声で振り向くと家の陰から一人の野盗の男が林の中に逃げていくのが目に飛び込む。

「その先も見てみろ」

 まずいことに男の先には、様子を見に戻ってきた二人の幼い姉妹がいる。

「まずい!気づいた」

 姉妹が何かに驚き林の奥に引き返し走って行く、目線を下にやるとすでに男は、走りだしていた。

「おい!いくぞ!」

「え?」

「え、じゃない!俺たちで助けるんだ。あいつらは、まだ気づいてない、もたもたしてたら見失うぞ!」

 そう言うとエリオットは、駆け出す。

 くそ!どんどんファンタジーがシリアスになってくる、現世ではよくあるテレビのワンシーンだが、戦う力なんて持ってないぞ。

 せいぜい「体育が得意科目です」程度だ。

 エリオットも不安げにこちらをチラチラと走りながらうかがっている。

 たぶん、旅の途中で話したことを気にしてるんだろう。

 エリオットは、完全に自分のペースで走って行く、それについて行くためこっちは、林の中の木々のをよけながら走る。

 エリオットのやつは、小さいこともあって茂みの根元を走り抜けていくが、こっちは、そのたびに茂みに突進していって、すっかりボロボロだ、林の木々も木こりや山師など手が入っていないため、滅茶苦茶な生え方をしている、走るのにも一苦労だ!。

「おい、大丈夫か?」

 ふいに立ち止まりこちらの様子をうかがう

「はぁっ・・はぁっ・・大丈夫だ・・急ごう」

「そうじゃない!・・やれるのかと聞いているんだ」

 エリオットは、語気を荒げ意味深に聞き返す。

 わかっている、エリオットの言いたいことは。

「・・・・」

だが即答することなんて、できるわけがない

「おまえ、俺との約束覚えているよな!」

 道すがら俺たちは、散々しゃべりあった。

そのときのことを思い出す。




――――――


「それってどういうことだよ?」

「だから~、俺は、お前なんだって」

「いや、俺は、俺だろ?」

「だから~、俺は、お前の本心をベースに作られてるんだ」

「でも精霊とか言ってたじゃないかそれにベースってやっぱり、俺自じゃないってことだろ」

「いいか、人は、誰しもプラーナ、つまり精神エネルギーが体内に巡っているんだ。これが魂という物を作っている」

 エリオットは、観念して、地面に腰を下ろすと、ゆっくりと説明しだした。

「こちらの世界の、精霊という物は、高いプラーナ体でからだと言う器がなくても、精神を固定でき、万物の周りや中で漂っているんだ」

 エリオットは、そう言うが現になにも漂っていないし、見えもしない。

「精神体だからな、普通は見えない・・」

「でもお前は、見えているだろう」

 エリオットは、ふふん♪と得意げに鼻をならした。

「召喚という物は、とても精霊の力が関与していて、お前をこちらで再構築するにあたって、まず精神、そして肉体の順で再構築するんだ」

「すると、俺は死んだのか?」

「まぁ~、半分な♪」

 半分でよかった。

「そしてここからだ、精神体を構築するとき精霊達の強い影響を受けて、肉体の容量よりも大きくなってしまった精神体は、肉体という器からあふれた部分をファミリアとして分離したんだ」

「でも精霊は、体がないんじゃ」

「これは、分離するさいにできた肉体の器の膜みたいなものだ、俺の体のほとんどは、プラーナでできている」

 そう言うとエリオットは、腰を上げて歩き出す

「でも、分離したんだったら、やっぱりもう別人格だろ」

「いや、俺たちの精神体は、常に細い糸でつながっていて共有されている、

もちろん死ぬときは、一緒だ♪」

 気味の悪いウインクをするな!

「でも性格が?」

「さっきも言ったが、おれの大部分は精神体だ、精霊は純粋なものを好む。再構築するとき、おまえの本心の部分が強く影響したんだ」

 わがままの間違いでは!

「つまり、俺の言うことはお前の本心からの言うことで、俺の言うことは絶対だ」「絶対ってそんな」

「む・・ちょっと待て・・」

―――――――― 


 あの時のこと言っているのか、お前の言っていることは、俺の本心だって?

 確かにそうかもしれない、だが、だからといってできることと、できないことがある。

「本当に俺にできるのか」

「・・・・ああ、できるとも・・・・俺を誰だと思っている!」

 エリオットがまっすぐ見つめ言う。

 どこまでやれるか分からないだけど、こいつの言っていることは、俺の心の奥を沸き立たせる。

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