第5話異世界へ召喚

 意識が薄らぎながら視界が真っ白に広がっていく。


 ああ、僕は、死ぬんだな。


 シズちゃんを守れなかった・・・。


 それどころか、助けられる始末・・・うう・・・なんだかまぶしいな~。


 あっちの方は、暗くてまぶしくなさそうだ・・・。



 ふぅ・・・・ここは、暗くて涼しぞ・・・・なんだか・・・・眠く・・・・。

 


「・お・・」

 ん?


「・おい・・」

 なんだ・・・誰か呼んで・・・。


「そっちは、だめだ」

 で、でももう真っ暗でなにもみえないぞ


「こっちだ・・」

 うう・・光が。


「こっちへ来るんだ・・」

 そっちには、何があるんだ?


「いいぞ、そうだ。こっちへ来るんだ!」

 うう・・・・まぶしい・・・・



――――――――――


「・・・・・・んん・・・・はあ~・・・」

 体が重い地面にへばりついているようだ。

「・・うう・・ううう」

 だめだ・・全く動かない・・・・

「まったく・・情けないやつだ」

 だれだ・・・・視界がぼやけて・・・・

「ふんふん・・・・まぁ~仕方ない」

 ぐふっ・・・・腹に何かのしかかってきた。

「どれどれ♪・・意識は、正常みたいだな」

 うぉっ・・黒くてでかい物が!

「フフフ・・まぁ~そのまましばらく寝ていろ、あれだけのことがあったんだ」

 うっ!・・・・なんだ体の上を移動しているのか、なんか足みたいな感触がたくさんあるぞ、気持ち悪い。

「よっと・・・・そろそろ眼もなれてきただろう、周りを見てみろ」

 視界の端を見渡すと石畳とそこから石柱が生えている。

 もう一度視線を正面に向けるとなにかのレリーフが描かれたドーム型の天井が見える。

「どうやら、意識もはっきりしてきたようだな・・さあ、起きろ♪」

 せかされるまま、上体を起こしていく。

「よ~~し・・・そうだ・・・ゆっくり・・」

「うう・・・・・・ぷはぁっ」

 どこだここは、薄暗い林の中のようだ、だがわずかに差し込む光で、昼間だと言うことは、わかる

「フフ・・驚いたか♪」

 真っ黒な物体がぴょいと胸元に飛び込んでくる。

「ようこそ、異世界へ♪」

真っ黒物体は、ふんふんと鼻を鳴らし顔をまじまじと観察した後、ぴょんとまた床におり、まるで自分を自慢するようにくるりと回るとこちらを向いた。

「ね、ねこ?」

 足下には、黒い美しい毛並みを自慢するようにくねらせ、大きな瞳でこちらをうかがう一匹の猫がいた。生後2~3年ぐらいだろうか、すっきりとしたシルエットと長い尻尾をくねらせこちらに向き直る。

「フフフ・・体の具合は、どうだ・・・・ひどいけがじゃなかったか?」

 まゆを寄せ含みのある顔をする。

「あっ!」

 そうだ、確か健児に背中を刺された。だが体をまさぐっても痛みは、かんじられない、傷口すら見当たらない。

「どういうことだ・・・・服は、血で汚れてるのに・・・・」

「フフフ・・お前をこちらに呼ぶさいに、一度肉体を素粒子レベルまで分解し、こちらに召喚し、そしてまた肉体を再構築したのだ、傷口がふさがれてるのは、その副産物だろ」

 自慢げに話しながら自分の周りを尻尾を掲げながら周回する。

「お前は、いったい?・・」

 その言葉を聞くとピタリと立ち止まりにやりと笑うと、自分の足の間に、前足を揃え、背筋をのばすと。

「俺の名は、エリオット・・・・お前のファミリアだ!」

「ふぁ、ふぁみ・・り・」

「ファミリアだ、お前の分身・・・・いや、お前の本心を具現化した精霊のような物だ」

「な、なんでそんな物が、俺に?」

「フフフ・・まあ~適正という物だろうな♪」

「適正って」

「さあ立て、こんなとこにいつまでもいると野盗に襲われるぞ!」

 いったいなんなんだ、分身だの本心だのだからってずけずけと。

「う・・あれ・・」

 エリオットの長話も終わって立ち上がって見たがふらりとし、たたらをふんでしまった。

 目覚めてからずいぶんたったはずだけどまだ頭が重い。

「むう~~まだ少しかかるか~、あれだけの傷を修復したんだ、体がエネルギーをほとんど使い切ってしまったんだ」

「すぅ~~・・・はぁ~~・・・」

 深呼吸をし、気を引き締める。

 青々とした冷たく新鮮な空気が、頭の中を冷やし清めていく。

「よし・・さあ出発するぞ、もたもたしていると日が暮れて飢え死にだ」

「出発ってどこに?」

 そう言うとエリオットは、フンッとはなをならし歩き出す

「こっちだ」


――――――――


 どうやら自分の倒れていた場所は、何かの祭壇のようで、床や柱に何か文字が彫られていた。

 特に倒れていた場所には、何か魔方陣のような物が床に刻まれている。

エリオットの後を追い道なりに進んで気づいたがどうやら自分は、どこか高い丘か山にいるようだ。さっきからエリオットは、道を下り続けている。

「ここは昔、大きな戦争ががあってな、今いる場所は、ちょうど街の大通りに当たる」

 そう言われ見渡すと木々や草コケに隠れるように朽ちた死骸や瓦礫が土の中から顔を覗かせている。

「よし・・抜けたぞ・・」

「うっ・・うああ~~」

 日差しでくらんだ眼をゆっくり開けると視界いっぱいの青空と大平原が目に飛び込んだ。

「すぅ~~~・・・はぁ~~」

 見たこともない空の広さに心を奪われる。

「すっっげぇぇーーーーー!」

「ふふふ♪・・さあこっちだ」

叫ぶ俺になぜだかエリオットも笑顔で喜び、平地に向かって駆け出す。

「ちょ、ちょっと待って・・・・ネコはやっ!」

「はははは」

 ぜえぜえと全力で丘を駆け下りる、いろいろなことがいっぱい起こったが目の前の現実離れしたできごとに、わくわくが止まらない。

 俺は、僕ということやめることにした。

 

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