第2話御神樹の祭り
あれから静音さんは、僕に話しかけなくなった。
たまにこちらから、話しかけても会話が弾むことは、なかった。
逆に武田のやつは、日に日に上機嫌になっていた。おそらく、御神樹の祭りが近いことだ。
「おう、モヤシ~、今度の祭りもお前は、屋台でバイトか~」
「うん、去年と同じ焼きそば屋」
「そうか、まあ俺も去年と違って今年は、大変だからな~」
御神樹の祭りの最後に踊る夫婦踊りの
武田が去年と違うと言ってるのは、去年の祭りで武田が太鼓、静音さんが鈴の音をやり、そして今年は踊り手のことを行っているのだろう。
「静音、お前の方は、大丈夫なんだろうな」
「だ、大丈夫てなによ、あんたの方こそ裾ふんでころぶんじゃないわよ!」
静音さんは、上の空だったのか、慌てて勢いよく立ち上がり言い返す。
「はははは・・・・まあ、お前も手が空いたら俺たちの晴れ舞台でも見に来いや」
武田の笑い声が教室中に響く、静音さんもあきれてる。
――――週末の土曜の夜、僕はほかの人たちより一足早く神社に来て、出店の準備の手伝いと御神樹の祭りで踊る舞台の設置の手伝いにかり出されていた。
「いや~助かるよ、テントを一人で立てるの手間取って仕方なくって~」
去年、一昨年と働かせて貰っている、出店の親父さんだ。
実は、この仕事を始めたきっかけは、一昨年、コンビニのバイトをしていたとき、コンビニの店長から「自分の弟が祭りで、出店を出しているんだけど、今年から一人で困っている」と言われ祭りの期間だけ弟を手伝ってくれとたのまれたのだ。
「こっちは、もういいから、今度は祭りの舞台の方手伝ってきて」
「はい」
力仕事が一段落したので、ガス管周りの仕事は、親父さんに任せることにし、境内の裏手に向かうことにする。
「あ~~~、会長さんによろし言っといてね~~~」
「わかりました~~」
小走りしながら、振り返って応える。
周囲1キロメートルほどの神内を囲むように樹が植えられそれを石作の囲いが静かに並ぶ、畳2枚ほどの少し急な石階段を上ると左右に大きく開け、境内へ向かう石畳を、色とりどりの屋台が囲むように並ぶ、しばらく行くとまた石階段があり、それを上ると街を見下ろすように瓦屋根の大きな神社が建っている。
神社に隣接するように横に長く平屋が建てられ、おみくじやお守りが売られさらにその後ろに2階建ての白いコンクリート塀の事務所が建てられ、入り口のガラス張りの玄関から、厄払いや祈願などを待つ人たちが見える。
その建物を裏手に二階へ続く階段があり上ったところが事務所の入り口にある。
「いやー、では、また後で」
「はははは・・、では、後ほど」
下を通り過ぎようとしたとき、事務所からぞろぞろと人が出てきた。
最初に出てきたのは、武田のやつだった、その後に出てきたのは、武田の父で不動産会社を経営してる、社長だ。武田のやつと違って幾分風格はあるが、ネクタイだけは、自己主張が隠せてない。
続いて出てきたのは、草薙さんの父親だ。この神社の神主でもあり近所に合気道の道場を開いており、そこで師範務めている。しばらくして後に続くように静音さんもでてきた。
僕は、少し間が悪い感じに襲われそそくさとその場をさった。
事務所一階は、社への広い連絡通路になっており、T字のようになっており厄払いなどの人たちのいる待合室と社、そしてドアを挟んで、祭具や脚立、椅子などをしまってある倉庫と、少し大きめの台所の通路の三つを繋げてる。
「失礼しまーす」
「はーーい」
裏口から倉庫まで気を遣ってかビニールシートが敷いてあり、すこしあがって声を掛けると、パタパタとエプロンを着けた、少し品のある、明るい女性が出てきた。
「屋台の方から、手伝いに来ました」
「え、ずいぶん若いのね、親の手伝いかなんか」
「いえ、バイトです」
「あらそう、へぇ~~、若いのに大変ね」
静音さんの母親で名前は、夏音さんだ。
実は、この人も合気道の有段者で実質的な道場指導は、この人がしている。
髪を後ろ手に束ね、上は、ティーシャツ下はジーンズのタイトスカートのほんのりグラマラス女性は、見た目に似つかわしく、僕の手をわしずかむと倉庫の方へ引っ張っていった。
「やだあなた、腕ほっそいわね、だいじょぶなの」
グイグイと引っ張って倉庫に案内する。
「舞台の方は、任せてあるから大丈夫なんだけど、こっちの仮設テントを早く仕上げちゃいたいのよね~」
腰に手を当て、眉をつり上げ仁王立ちで折りたたんだ仮設テントをにらみつける。
「わかりました、場所は去年と同じ場所ですよね、ひとまず重い骨組みだけ、さき運んじゃいますね」
「大丈夫かしら」
僕の態度に驚いたのか、すこしはしゃいで見える。
「はい、学校の物と同じですし、何回か経験もあるので大丈夫です」
「そ、じゃあ二人でやっちゃいましょうか」
静音さんのお母さんの明るさには、僕は救われた。
さっきまで静音さん達は、二階の事務所で何を話していたのか考えると、僕は、またいつもの疎外感を思い出すであろう。
仮設テントの骨組みを運び終える頃には、手伝いの人も集まりだし、テント張るのは、スムーズにいった。
その後は、長板テーブルを並べ、後は、総出でパイプ椅子をならべた。
「ご苦労様、いやぁ~~、助かっちゃたわ」
「いえ、どういたしまして」
さすがに屋台と仮設テントの組み立て、そして客席の準備と、休みなしで働いたので、僕は、疲れ切っていた。
「あ、いたぁ~、おかあさ~ん」
テント下で休んでいると遠くから静音さんが夏音さんを呼ぶ声がし、振り返ると事務所の裏手から玉砂利を踏みならして走ってくる。
普段着の静音さんは、母親に似てか服装は、ティーシャツにジーンズと高校生にしては、素っ気ない物だが、彼女が着ると、彼女のはつらつとした性格もあって、華やかに見える。
「あれ~、シズ~どうしたの~、まだそんなカッコして~」
「何言ってるのよ母さん、着付け手伝ってくれるて言ったでしょ、それに着方知ってるのお母さんだけでしょ」
「あっ、そうだったわね」
夏音さんがおどけてごまかす。
「あれ・・林君なんでいるの」
今日は、顔をあわすのが気まずかったので内心は、複雑だった。とくに今年からわ
「知り合いなの」
夏音さんが二人の顔を見る。
「みんなより早く来て出店の手伝いが終わったから、こっちの方に手伝いに来たんだ・・」
「そうなんだ、お母さん大丈夫だった、人使い荒いから」
「ちょ・・シズ何言ってるのよ」
「ごめんね~、学校の友達だったらお茶でも出したのに~」
夏音さんは、僕に向かって体をくねらせ、静音さんの期限をとり
「はははは・・」
顔を近づける夏音さんに、僕はとっさに身じろぎするが顔が赤くなってしまう
「ほら、お母さん、い・く・わ・よ」
そう言うと夏音さんの腕をつかみ強引に引っ張り立ち去っていく。
「・・・・・・」
立ち去っていく一瞬、静音さんの暗い顔が見えた気がしたが、ちらほらと屋台の明かりがつき出し、慌てて店に戻った。
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