聖樹杖物語「君を護りたい」
濵明之介
第1話「我が輩は、モヤシである」
「我が輩は猫である、名前はまだない」
猫、家猫、野良猫、地域猫、住む場所によって呼び方は変わるが、彼らはそんなことどうだっていのであろう。
たとえ家猫が飼い主から餌を与えられなくなっても、彼らは自らその家を抜け出し野良猫、または地域猫になるだろう。
野良猫もまた、誰かに招き入れられたらなにくわぬ顔で玄関をくぐり、翌日から大切な家族だ。
つまり自立しているのだ。心も体も。
ホームルームの終了のチャイムと、担任の退室を合図に、部活に行く者、放課後遊びに行く予定を話す者、メールやラインをチェックする者。そしてぼくは、手早く荷物をまとめ、クラスメイト達に別れを告げ軽足でドアに向かう
「おい、モヤシ」
クラスメイトの武田が声をかける。
「今日もコンビニか?」
「うん、今日は授業が一つ多いから、その分急がなくちゃ」
鞄を肩にかけつつ椅子を机に戻しながら答える。
「がんばれよー、貧乏人」
「ちょっと健児!そんな風に言わないの!」
クラスメイトの
「ちっ・・・・静音こんなやつかばうな、ビンボーが移るぞ」
「またそんな風に言ってー!」
眉を怒らせ何者も物怖じしない大きな瞳で健児をにらむ、セミロングの髪をなびかせこちらに歩いくる。
「ごめんなさい林君、あとで健児のやつに言っとくから」
静音さん陰から武田のやつがニタ着きながらぼくを笑う、いつもそうだ、武田が突っかかり静音さんがぼくをかばう、二人はぼくをよそに下の名でけんかを始める
そして静音さんは、僕を上の名で呼んでなだめ、武田は自分と静音さんと僕の上下関係を確認して上機嫌になる。
「じゃあな~、モヤシ~」
武田が僕の姓をもじって別れを言う。
「もう!またそんなこと言ってー!」
武田がどんなにふざけていても静音さんは、至って真剣である
「ほんとにごめんなさい、じゃあバイト頑張ってねモヤシくん・・・・あっ!」
「・・・・・・」
武田につられたのであろう。静音さんは、真っ青になった後、顔を真っ赤にして必死に謝った。
「ご、ごめんなさい、ほんっとごめんなさい」
「ははははは・・・・」
武田が後ろで大笑いしてる。
「ははは・・・・じゃあね」
ぼくは、その場にいたたまれなくて、そそくさとその場を後にした。
武田は、クラスでは一番口が悪いが、不良という訳でもない。家が旧家で有るらしく、ここいら一帯の土地の所有者だ。そうゆうこともあってか誰にでも上から目線だ。「誰のおかげで生きていると思っているんだ」などと平気で声に出してしまう、残念なやつだ。静音さんも同じく旧家の出で武田家とは、昔から付き合いがあるらしく、街の祭事でもよく二人で綺麗な装束を身にまとい、祭りを盛り上げていたものである。
各言うぼくは、せっせと屋台で焼きそば仕込んでいた。
学校をでて数百メートル離れた場所にある、コンビニBIB第二森丘学園前店。学校の陰になるように建っているこのコンビニは、校則などでは、禁止されているが生徒、教職員両者の暗黙の憩いの場所になっている。
建物をグルッと一週回るように走り、裏手に回る。
「ごくろーさまでーす」
「あ~~、林君、なんだい走ってきたのぉ~~」
「すぐ入ります」
コンビニBIB、生徒間では、ビンボーで通っているこの店は、呼び名とはうらはらに店内は広々とし、棚の一つ一つの間隔が広く、レジ横のイートインスペースには、丸形のテーブルが二つ置かれ学園生達の静かなたまり場になっていた。
「学生さんは大変だね~~」
人のよさそうな店長が顔をパソコンに向けたまま返事をする、どうやら月例報告書作成しているようだ。
「君が走ってきたと言うことは、そろそろ学園の生徒が押し寄せてくる頃かな」
「はい」
「悪いけどレジ、いいかな」
パソコンがあまり得意では、ないようで独特な構えで画面と向き合っている。
「僕は・・・・この・・月例書を・・・・本社に送ったら・・・・すぐに入るから」
「うい~~す」
コンビニのロゴの入ったユニフォームに袖を通しエプロンをかけながらレジへ入る。
「・・・・・・うし」
今日も頑張るぞ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ~~」
シフトチェンジが近づき仕上げに店外に出ていきパンパンになったゴミ袋を引っ張り出し店の裏手に置いておく。
この作業が終わる頃には、シフトを2分ほどすぎたころだ。
「おしまいっと・・・・」
「林君!」
「!」
振り返ると、静音さんが立っていた。
「ど、どうしたの草薙さん」
「へへへ・・・」
静音さんは、驚いた僕を見て、してやったりと言わんばかりだ。
「ど、どうしたの・・・・もう遅いよ早く帰りなよ」
「・・・・・・・・」
そう返すと静音さんは、黙って下を向いてしまった。
「げ、下校の時のこと!・・・・謝り・・た・く・て」
一度体を起こしたまでは、よかったのだが残念ながら最後は、また下を向いたまま、謝ることになってしまった。
生来の生真面目さが見て取れる。
「へ・・・・あ、あ~~そんなこと」
「そ、そんなことって、わたし今まで」
僕の返事に対して、顔を上げこちらに踏みよる
「いいんだよ、草薙さんのことは、ちゃんとわかっているから」
そう言うと、少しハッとなり我に返ったようで、ぷいっと静音さんは、そっぽを向いてしまった。
「ねえ・・・・仕事終わるのどれくらい」
――――商店街を抜け、街から離れるにつけ周りの建物が少しずつ背を低くし、反対に敷地面積が長くなっていく、それにあわせて建物が洋式から和式へ変わっていく。
小高い丘の中腹にある、大きな屋敷、草薙さんの家は、この一帯で一番大きな家だ。
静音さんに誘われ帰り道二人でとりとめのない会話をした。さすがにこんな夜遅くに、一人で返すわけにも行かず「いいよ」と言ったが最後は、僕が少し押し切る形で家まで送ることになった。
「ほんとにごめんね」
「いいよ・・・・それよりもうすぐだね、毎年楽しみにしてるよ」
「うん、今年は去年と違って、前の人やめっちゃったから、今年からの三年間わたしが、踊り手なんだ」
この森丘町では、御神樹の祭りという者が有る。
遙か昔、この森丘町で二人の男女が駆け落ちし、神社に逃げ着いたところ、野盗にあい、殺されしまったのだという。
二人の遺体を見つけた両親達は、大変悲しみ、せめてあの世で二人になれるよう、遺体のあった神社の脇に二つの若木を植えたこと、まるで抱き合うように育ち、一つの大樹になったというものだ。
御神樹の祭りは、それをなぞらえ二人の男女が折り重なるように舞うものだ。
「でも僕は、今年も屋台かな」
「やきそば・・・・美味しいって評判よ、お父さんも若いのに感心してるって」
「はは・・・・ありがと」
「今年の踊り手って・・・・やっぱり」
「うん・・・・あいつ」
静音さんは、なぜだか少し寂しそうになった。
「あいつ・・・・すごくがんばってるんだ」
「へぇ~」
僕は、気のない返事しかできなかった。
静音さんは、それからずっと黙ってしまった。
坂道を中腹までさしかかった頃、静音さんは、足を止めた。
「もうこのへんでいいよ」
「うん・・そうだね」
「じゃね」
そう言うとパタパタとさっきまでの重たい空気がなかったかのようにかのじょは、あっさり帰ってしまった。
「はぁっ・・・・はぁっ」
静音さんを送った道を折り返し自宅前まで軽く走ったがずいぶん遅くなってしまった。
築六九年二階建てアパート、所々をトタンで補修し扉や窓の格子などが錆付いて宙ぶらりんになっているこのアパートの103が僕のうちだ。
「ただいまー、母さん」
ドアを開けるとすぐに、母さんの姿が目に入る。
去年父を亡くし、母はすぐに働きに出た。
「父さんの分までがんばらないと」といい二つの仕事を掛け持ちしていたが無理がたったて体を壊してしまった。
病院で入院してるうちに、貯蓄を使い果たしてしまったが、父の入っていた保険金が手元に入って来たのと母子家庭に対する制度でなんとか食いつないできた。
「ああお帰り、幸多」
「今日コンビニでお弁当もらえたんだ、すぐ支度するね」
ドア横のキッチンに弁当を置き、部屋の奥の自分の机に鞄を置く、すぐに戻ってキッチンに掛けてあるエプロンを着ける
「今日は、弁当があるから味噌汁だけでいいかな」
後ろでは、母が造花の作りかけやパーツなどをかたずけている。
残念ながら病院を退院しても母の体調は、昔ほどよくはならなかった。
「もう一度、病院で見てもらおう」と何度も行ったが「大丈夫、それより勉強しなさい」と煙に巻かれた。
そんな日々が続き、やっとの思いで僕は、高校に進学できた。
「家のことは心配しないでいいから、幸多の行きたい学校に行きなさい」
進路希望のさい、この時ばかりは母は似つかわしくなく、ぼくの心配をよそに強情だったため、最終的に僕は母に甘えることにした。
勉強の甲斐あって僕は、この界隈で一番有名な高校に通うことになった。
制服に袖を通したときは、母さん泣いて喜んでくれたなー。
鍋にお湯が沸くまでの間に中に入れる具材のしたごしらえをする。今日は、野菜が少ないからキャベツにしよう。調味料の味噌や粉末だし、食器などをテーブルに並べるうちに、ちょうどお湯が軽く沸く、キャベツをいれ、火が通るまでのあいだに弁当をレンジで温める。
「今日もおそかったねー、バイトなんてやめちゃっていいんだよー、おまえだってもっとあそびたいだろうに」
「いいんだよ母さん、それに運動は昔から苦手だし」
鍋に粉末だしを入れ味噌を溶きながら談笑する。
チン♪
「よし♪」
お弁当も温まった♪
ちゃぶ台に鍋敷きを置きその上に味噌汁の入った、鍋を置く
「今日は、焼き肉弁当と日替わり弁当がもれえたんだ」
母に日替わり自分に焼き肉弁当を置く
「いただきまーす!!」
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