第7話 小鳥遊の後輩、月詠の妹

「これで公園の清掃活動は終了です。ゴミ袋は前の方に集めてますのでそこへ、トングは回収箱を用意してますのでそこへ入れてください。それが終わったら各自解散ということで。それでは皆さんお疲れさまでした」


 集合場所に着いた時も小鳥遊はまだ疑っていたけど何とか誤魔化し色々とウヤムヤにしてから終わりの時を待ってると月詠が最後にそう言った。

 その言葉で今日集まったみんなが解放された。

 ここにいるほとんどの人が嫌々でやっていたのか、やりきったというよりもようやく終わった感がにじみ出てる。

 そしてみんながトングの返却のために我先にという感じで前方に群がっていた。


「私たちも行こう」

「ああ」


 俺たちも向かうとトングを回収するところにはたまたま月詠がいて、そこでは誰かと話していた。


「誰だろうあの人」


 なんか月詠が誰かと話してるのが珍しく感じそう小鳥遊に訊いてみた。


「あれは……あおいだね」

「葵……?」

「うん。月詠さんの妹だよ」

「月詠に妹なんていたんだ」


 姉妹なら話すくらい普通か。


「って言うかその妹さんと小鳥遊知り合いなの?」

「同じ部活なんだよ。二年生の後輩」

「あ~そう言うこと」

「あ、如月くんと小鳥遊さん、二人ともお疲れ様」


 月詠は近づいてきた俺たちに気付くと妹との会話を止めてわざわざそう言ってきた。


「そっちこそお疲れ」

「お疲れ様」

「トングはここに、ゴミはあっちね」

「はいよ」


 俺はそう言ってから大量のトングが入ってる回収箱の中に入れた。

 この量からして、月詠目当てでわざわざここに来た奴らが沢山いたってことか……流石美人生徒会長、その人気侮りがたし。


「こんにちは、小鳥遊先輩」

「こんにちは、葵もこれに参加してたんだね」

「ええそうなんですよ。くじではずれを引いてしまいまして……もしかして小鳥遊先輩もですか?」

「私たちは……似たようなものかな」


 気づくと小鳥遊と月詠の妹は話していた。

 二人の会話には硬いものは無く、二人の仲の良さをうかがわせる。

 それにしても『似たようなもの』か……確かに俺たちは貧乏くじを引かされた感じだから、的を射てるな。


「似たようなもの……?」

「まぁ、ちょっとね。それよりも月詠さんと話があったんじゃないの?」

「いいえ、特には。私のは単なる暇つぶしですよ。それでこちらの先輩は? もしかして……小鳥遊先輩の彼氏さんですか?」

「な……」

「え……」


 なんだか小鳥遊と楽しそうに話してたのに、いきなり俺が巻き込まれた。


「ち、違うよ!」

「え~そうですか? 何か少しどもったところとか怪しいですよ~?」

「それはいきなりで驚いたんだよ! 如月くんも何か言ってよ!」

「お、おう……」


 こんな必死で恥ずかしがってる小鳥遊は新鮮だ。

 ちょっと面白いかも……ここで「そうなんだよね~」とか言ったらもっと面白そうな気がするけど、流石に今はやめておく。


「まぁ、俺たちはそんな関係じゃないよ。普通の友達だ」

「そうでしたか……てっきり一緒にいるから彼氏かと思いました。すいません、えっと如月先輩、であってますか?」

「ああ、あってるよ。俺は如月蒼真っていうから」

「そうですか、分かりました。私は月詠葵です。名字で分かるかも知れませんが、そこにいる美鈴の妹です」

「ああ、そうみただね」


 本当に姉妹のようだ。

 確かにこう見ると妹だけあって月詠と似ている箇所もある。

 黒い髪の毛とか女子の割には高い身長とかそのスタイルとか……どれも月詠を連想させられる。


「じゃあ、月詠妹――」

「すいません、その呼び方はちょっと……」

「えっとじゃあ……」


 月詠か? いやこれだとどっちか判断つかないよな……それなら葵ちゃんか? いや、これには抵抗ある。そしたら……


「葵でいいですよ。私は後輩ですし」

「しかないよな。えっとそれで、あ、葵、俺ゴミ捨てに行っていい?」


 女子の名前呼びは後輩でも緊張する。


「ああ、すいません引き留めたりして」

「いや、大丈夫だよ。ああ、それと小鳥遊は付いてこなくていいから。どうせコレ捨ててくるだけだし」

「うん、分かった。それじゃあここで待ってるね」

「いや、別に待ってないで先に帰ってもいいけど」

「うんうん、如月くんが終わるまで待ってるよ。それとも私がいると迷惑……?」


 小鳥遊はそう言って泣きそうな顔をしてくる。


「いやいや、そんなふうに思ってないから」

「ふふ、分かってるよ。さっき何か隠されたからそのお返し」

「お、おう……」


 そして、小鳥遊は一転笑顔になる。

 小鳥遊は元々こんないたずらっ子だったのだろうか。

 付き合いが浅い俺には分からないけど、なんだかこう……遠慮のない態度は嬉しい。


「じゃあ、俺行ってくるから」

「それなら私も付いて行くわ。あっちで業者の人と話さないといけないから」

「はいよ」


 そして俺と月詠はゴミ袋が置かれてる所に向かった。


「月詠って妹がいたんだな」


 俺は自然とそんなことを訊いていた。

 知らぬ間に月詠とも普通に話せるようになっていた。


「ええ、知らなかったの?」

「なんで俺が知ってるって思うんだよ。俺が月詠と話したのはあの生徒会室が初めてなのに月詠の家族構成知ってたらヤバすぎるだろ」


 それはもうストーカーを疑うレベルだ。


「確かにそうだけど、小鳥遊さんと仲良さそうだったからてっきり葵について話を聞いてるかと思ったのよ」

「いや、流石にそれは無いだろ。そんなこと、何かきっかけがなきゃ普通訊かないって」

「それもそうね」

「それにしても二人って仲いいんだな」

「そうかしら?」

「いや、一人っ子の俺だから分からないけど、兄弟とか姉妹って普通仲悪いもんじゃないの?」

「それは漫画の見すぎだと思うわ。私たちはいたって普通よ。そりゃあ、ケンカとかもたまにはするけど絶縁とかは無いわよ」

「ふ~ん。そういうものかっと、着いたな」


 俺の目と鼻の先には大量のゴミが捨ててあり、業者者の人がちょうど軽トラに積み始めてたところだった。

 そこに俺は手に持っていたゴミ袋を投げ捨てた。


「これでよしっと。じゃあな、月詠」

「ええ、今日はホントお疲れ様。さよなら、如月くん」


 そうして俺たちは別れた。

 そして、俺は小鳥遊がいるところに戻るとそこにはまだ葵がいた。


「俺は帰るけど小鳥遊はどうする?」

「私は学校に行くよ。多分まだ部活やってると思うから」

「そう。それなら途中まで一緒に行くか」

「そうだね」

「如月先輩、私も付いていってもいいですか? 私も部活で学校に行くので」

「ああ、別にいいよ。ってか俺に許可とる必要ないから」

「だって~二人が本当は付き合ってたら私お邪魔じゃないですか?」

「いや、だからそれは無いから」


 この子はまったく……何でも色恋に結びつけたがるお年頃なのか? それとも俺はいじりやすいのか?

 まぁ、こうやってグイグイ来るのは俺としては話しやすいので嬉しかったりする。その内容は微妙だけど……

 しかしこう、少し話しただけでも月詠と違いがあるのが分かる。

 流石に性格までは似ないみたいで、葵は月詠のように冷静沈着ではなく天真爛漫のようだ。


「そう簡単に否定されるとなんだか女としては微妙だよね」

「ですよね~」

「俺にどうしろと!?」


 そして、何故か小鳥遊からの追撃を食らった。

 これはさっきのことをまだ根に持ってるってことか? 一発だけじゃ気が済まなかったと……意外と怖い女の子?

 それともただ俺に女心を理解できてないだけか……まぁ、こんなこと訊ける訳ないか。

 そうして俺たちは公園を出ていった。


 ※※※


「如月先輩って姉ちゃんと仲いいんですね」


 公園を出て早々そんなことを葵に聞かれた。

 ホント、年上でも物怖じしないでグイグイ来るなこの子。


「そうか? 月詠ってみんなともあんな感じじゃないの?」

「いいえ、それは相手が女子の場合で男子とあそこまで仲良さそうなのは初めて見ました」

「そうなのか?」


 俺は今月から月詠と話すようになったし、それ以前の月詠のことなんか分からないのでそう言うしかなかった。

 月詠のことだから誰とでも仲良さそうなイメージだけど……


「そうですよ。もしかしたら姉ちゃん、如月先輩のこと好きなのかも知れませんね」

「あのなぁ……またそれか。まず、月詠に限ってそんなことはないだろ」


 この際、仲が良いだけで色恋は無いだろうという考えは脇に置いておく。これは人それぞれ捉え方が違うから指摘しても意味は無い。

 だから、現実的な話に持っていった。


「どうしてそう思うんですか?」

「だって、月詠は今まで誰からの告白にもオーケーしてないんだぞ?」


 月詠は学校一の美女と言ってもいいのでそれだけ告白の噂はよく聞こえてきた。

 そしてその結果が全て『フラれる』というものだったのでそういった意味でも有名だった。

 だけど最近では、月詠が三年生になってからか、それとも学校の男子はもう諦めたからなのか、はたまた別の理由なのかは分からないけどそういった話は聞かなくなった。だけどそれは月詠の人気が無くなったという訳では無いだろう。

 そして、そんな人気者で選り取りみどりの状況なのに誰とも付き合ってないとなると、理由はいくつかに絞れる。


「それって恋愛に興味がないってことじゃないか?」

「それは単に姉ちゃんの好みの人がいなかっただけでは?」

「だとするとなおさらおかしいだろ。今まで告白した男子の中で俺よりもカッコイイ奴は確実にいたはずだし」


 俺の容姿? 中の上……であって欲しい。

 俺の性格? 面倒くさがりでやれと言われないとやらない。

 俺の能力? それこそ俺みたいな奴は五万といる。


 こんなステータスを超える奴なんてウチの高校にどれほどいるか分からねぇぞ……自分で言ってて悲しくなってきたわ。


「それは姉ちゃんの感性なので分かりませんけど……でも、一つだけ確かなのは姉ちゃんが如月先輩とは他の男子と違う接し方をしてるってことです」


 葵はそう断言した。

 そこには俺に有無を言わせない力があるように感じた。

 実際、俺よりも月詠と過ごした時間が長い葵だから分かることもあるので俺には何も言えない。

 かといって本人から聞いた訳じゃないので信じる切ることもできない。

 まぁ、本当にそうだったら嬉しいけどな。女子に特別扱いされて嬉しくない訳がない。それがいい意味でならばだけど。


「それに、初対面の私から見ても如月先輩は十分カッコイ人だと思いますよ。小鳥遊先輩もそう思いませんか?」

「えっ! 私?」

「はい」

「え、えっと……私もそう思うよ」

「お、おう……」


 小鳥遊は少し顔を赤くしながらそう言った。

 そんな態度で言われるとこっちまで恥ずかしくなるので言うならもっと堂々と言って欲しい。

 だけど、ここで「私は違うと思うなぁ」とか言われるとそれはそれで嫌なので、これでよかったとは思う。


「小鳥遊先輩恥ずかしがりすぎですよ……やっぱりふたりは――」

「「付き合ってないから!!」」

「息はぴったりですけど……」

「それが唯一の答えなんだからしょうがないだろ?」

「まぁ、今はそういうことにしておきましょう」

「今はって……」


 これからそういうことになると思ってるのか……?

 まぁ、確かに未来のことは分からないけど、それでも俺が小鳥遊と……いや、誰かと付き合うなんて想像できない。


「話を戻しますけど」

「いや、別に戻さなくていいから」

「これからも姉ちゃんと仲良くしてくださいってことです」


 話聞いてないし。

 それもけっこう最初の方まで戻ってるし。


「そりゃ言われなくても仲良くはするけどさ……というか逆に仲良くしてくださいって感じだけど」

「それは大丈夫ですよ。姉ちゃんもそう思ってますから」

「その根拠は?」

「妹の感です」

「はぁ……」


 そんなことだろうと思ったよ。


「なぁ小鳥遊、葵っていつもこうなのか?」

「う~ん、もう少し落ち着いた感じかな? でも、私もよく葵の恋愛話には巻き込まれてたよ」

「ああ、あれはデフォルトなのね」

「そんな訳なですよ。あんな話は私が信頼できると思った人とじゃなきゃできませんって」

「その中に俺も入るのか?」

「ええもちろんです。姉ちゃんと仲がいい人に悪い人はいないと思いますので」

「全幅の信頼だな」

「もちろんです」


 本当に仲がいいんだな月詠姉妹は。

 これでケンカもするって言うんだろ? どんなことでケンカするのかいつか見てみたいな。

 まぁ、どうせ些細なことだろうな。『テレビのリモコンが』とか『それ私が食べようと思ってたのに』とか。……いや、これも漫画の話か。


「あ、学校に着きましたね」


 葵にとっては楽しかったであろう、そして俺にとってはある意味地獄だった学校への道は終わり、目の前には葵と小鳥遊の目的地である笠原高校が建っている。


「それでは如月先輩、また今度話しましょうね」

「まぁ、別にいいけど、その時は恋愛から離れろよ」

「さぁ、どうでしょうね」

「おい」

「冗談ですよ。少しは控えますって。きっと周りの目もあるでしょうから」


 それでも少しなのね。


「じゃあね如月くん」

「ああ、じゃあな。今日はお疲れ」

「それはお互い様だよ」

「だな。そんなじゃあ二人とも部活頑張れよ」

「うん」

「はい」


 俺たち三人は手を振りあい、それぞれの目的地に向かって歩いて行った。

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