第3話 陸上部には花二つ
まず向かったのはバスケ部だ。
理由としては、龍也がいて比較的に気楽だから、ただそれだけである。
廊下を歩き、特別棟とは反対側にあるいつもバスケ部が使っている体育館に近づくと、床をこすったようなキュッ、というバスケの時によく聞く音が聞こえてくる。
「みんな元気に頑張るね」
俺にはできそうにないな。疲れるの嫌いだし。
別に体を動かすのが苦手という訳じゃない。体育はどちらかと言えば得意だ。ただ、自ら汗水流して苦労したいとは思えないだけ。
「ま、太ってきてるわけじゃないし、運動は体育程度でいいし」
太りにくい体質なのが良かった。いや、逆に運動を必要としなくなってるから悪いのか? ……ま、どうでもいいか。
俺はそう思ってから体育館の扉を開けた。
「お~やってるやってる」
扉を開けた時誰かがレイアップを決めていた。どうやら一対一をやっていたようで、対戦相手は少し悔しそうだ。他の人は適当にシュートを打ったり休んでいたりするので、まだ部活は始まっていないらしい。
また、制服を来た人も見られるが、少しおどおどした態度なのでおそらく一年生だろう。うちは強豪というわ訳でもないがそれなりの数がいる。多分、あの中に何人かは冷やかしがいるだろう。
「さて、龍也はどこだ?」
体育館は二つの部活が使えるくらいには広く、今は半面で区切られ手前側が男子バスケットボール部、奥側が女子バスケットボール部だ。
俺は華のある女バスの方も気になったがそちらには行かず、汗臭い男バスが使っているコートに目を向けそこで端の方で座っている龍也を見つけたので真っすぐそこに向かった。龍也も気付いたのか俺の方を見て手を振っている。
「よ、蒼真がここに来るなんて初めてじゃないか? もしかして入部希望か?」
「なわけ、ちょっとした用事だよ」
「用事? 女バスでも見に来たのか?」
「ちげーよ。女子目当てでわざわざ足を運ぶ訳ないだろ?」
「そうなのか? 健全な男子ならそれくらい……」
「しないから」
それ単なる変態だし。でも、女子が逆にやるとなんだか許容されるよな。追っかけとかまさにそれじゃん。……いや、それは関係ないな今は。それに、許容されてもやろうと思わないし。俺はそこまで女に飢えてない。
「はぁ……生徒会の手伝いだよ。そうだな……学事補助委員の仕事って言ったら伝わるか」
俺は仕切り直してここに来た意味を伝えた。
龍也もさっきの話は終わりとばかりに俺の話を聞いている。
「補助委員の仕事だぁ? そんなの聞いたこと無いぞ?」
「当たり前だろ、これは岬先生だけなんだから」
「なんだそれ?」
「俺もよく分からん。ただ、今年から俺のクラスだけその名の通りの委員会になっちまった」
「マジで?」
「マジで」
なぜか龍也は黙り込んだが、次の瞬間「それはよかったな!」と言いながら笑いやがった。
「プロフェッショナルなお前だったら楽勝だろうそんなこと」
「いや、俺がプロフェッショナルなのは物を運ぶとかの雑用であって、ここまでどこかに肩入れするのとは違うんだけど」
「ま、いいじゃんいいじゃん。その感じだといろんなところの手伝いとかさせられるんじゃね?」
「いや、まぁ、多分そうだけど……頼むからそんなこと言わないでくれ。将来に対する不安が積もってくる」
「でも、なんだか楽しそうじゃん。お前の学校生活もこれで少しは変わるだろうよ」
「確かに変わる気はするけど……こんなのは俺は望んでなかったぞ? なんだったら今から代わるか?」
「嫌だね。何のために俺が無所属を貫いてると思うんだ」
いや、それ楽するためじゃん。部活のためとかそれらしい理由にすればいいのに。
「まぁ、いいや。それで今部長はいるか? 俺そいつに用があるんだけど」
「ああ、あそこで一対一やってる奴がそうだよ。呼ぼうか?」
「頼む」
自分から行こうとも思ったが呼んでくれるならその方がいいだろう。
「
龍也がそう言うと、辰巳と呼ばれた男子が訝しそうな表情をしながらやって来た。身長も高くイケメンでザ・バスケ部と言った感じだ。いや、イケメンという要素がバスケ部に必要かどうかは知らないけど。
そして、俺の事チラリと見てから龍也の方に向いた。
あーこれ、誰だこいつって思われたな。
「どうしたんだいったい……?」
「蒼真がお前に用事があるんだとよ」
「蒼真……っていうと彼のことかい?」
「そうそう。なんでも生徒会の用事だって」
俺が何も言わなくても話が勝手に進んでいく。楽なので俺はこの流れに任せる。
「生徒会……もしかしてアレのことか?」
そう言って今度は俺の方に向いた。アレって多分アレだよな?
「えっと……部活紹介のヤツだけど」
俺が確認のためにそう言うと、やっぱりといった表情をしてから、再度訝しそうな表情をした。
「それって明日提出じゃなかったっけ?」
「そうなんだけど、生徒会長が出来てるなら今日の方がいいってことで回収しに来た訳だけど……出来てる?」
「そうか、それなら出来てるからちょっと待っててくれ」
そう言って辰巳と呼ばれた男子はロッカールームの方に向かっていきそこから出てきたときには右手には一枚のプリントがあった。
「はい、これ」
「どうも。バスケ部はオッケーっと」
そうして一つのチェックが増える。ただ圧倒的に空欄がある。まぁ、これが最初の一歩目だから仕方ないけど今日はこれを増やしていく作業をしなければならないのか……道は険し。
「それじゃあ、俺はもういいか?」
「ああ、いいよ。ありがとね」
俺がそう言うと走り去っていきまた一対一を始めた。
「それじゃあ、俺はもう行くわ」
「そうか? 一年生と一緒に見学して、入部すればいいのに」
「バカか。見学してる時間なんて俺にはないの。まだまだたくさんあるんだから。それに入部なんてゴメンだね」
「そうかよ。ま、頑張ってくれや」
龍也は投げやりな感じでそう言った。
絶対気持ちこもってないなあれは。
「お前は一年の前で恥でもかいてろ」
なので軽く言い返す。
「そんなことありえないね。俺のスーパーテクニックでみんな虜だ」
「……お前そんなこと言ってて恥ずかしくねーのか?」
「……うるせぇ。軽い冗談だろが……」
龍也はすごく後悔しているような表情でそう言った。ただ、近くにいた一年生がこっちを見てるので後悔しても遅そうだが……
「じゃあ、俺は行くから。お前のスーパープレイが上手くいくことを心の隅っこくらいで願ってるよ」
きっかけは俺でも種を蒔いたのは龍也なので上手く刈り取ってくれ。
「だから冗談だって……っておい、待て! 行くなら誤解を解いてからいけよ!」
「がんばれ~」
俺は龍也にエールを送ってから体育館を出た。
「とりあえず次は卓球部かな」
そして、次の目標を定めそこに向かうことにした。
※※※
学校内の部活は全て確認した。そして、今は外の部活に来ておりそれもほとんどが終わっている。さっきサッカー部のを回収してきたところだ。
実際どの部も紹介文は完成しており、回収に来たことを伝えると、誰もが同じように「どうして今」と言った疑問を言ってくるのでかなりめんどくさかった。いっそのこと放送で伝えてやろうかとも思ったが、そんな度胸は無いのでやってない。
「はぁ……疲れた」
俺は肉体面ではなく精神面で疲労が来ている。
この時間になるとどこも部活を始めており話しかけずらいことこの上ないのだ。それに、龍也のような話せる人がいればよかったんだけど、そんな人は俺には少ない。すぐに思いつくだけでも一人だけ。無理をすれば二人目もいる。
一人目は龍也の想い人にして、高校からの友達である佐山。
二人目は最近というか今日知り合った、同じ委員会の小鳥遊。
思いついたのはこの二人だけです。はい。
少ない交友関係に嘆息してから俺は次の部活に向かうことにした。
えっと、残ってる部活は……陸上部か。って、こう考えてみたら二人とも同じ部活じゃん。
これは都合がいい。いつもより気楽にやれるかも?
そう疑問に思ったが俺の足取りは軽く陸上部がいる所に向かっていった。
笠原高校にはサッカー用のグランドとは別に、陸上用のトラックがあるという豪華設計だ。もちろん四〇〇メートルトラックだけでなく、その中では砲丸投げや走り高跳びができるようになっている。そして、地面も芝という、これまた豪華設計だ。
俺がここを使うのは体育の時だけなので、なんだかこういう時にいるのは新鮮に感じる。
「さむっ……」
ただ、そんなものをずっと感じてる意味もないし、外は思いのほか寒いので、とりあえず佐山を探す。小鳥遊はまだちょっとレベルが高い。
あそこにいるかな?
俺が注目したのは、集団で集まっているところだ。休憩でもしてるのだろうか?
ま、とりあえず行ってみるか。
俺はそう考えその集団に近づいてみると、
「えっと……これから短距離のメニューをやるから見ててね」
と何やら説明をしていた。恐らくここにいるのは皆一年生なのだう。
そして、その説明してるのは俺の第一目標の佐山だった。
あいつ緊張感してるな? 何が「見ててね」だ。いつもなら「見てろよ」だろうに。まぁ、珍しいのが見れてラッキーかな。
そんなことを思っていると、佐山が俺に気づいた。
「あ、蒼真じゃん。どうしたのこんなところに来て。もしかして入部希望とかじゃないでしょうね」
そう言いながら俺のところまで歩いてくる。
ほら、さっきと態度違う。しかも、龍也と同じようなこと言うし、早く付き合っちまえ。
「ちげーよ。おたくの部長に用事があるの」
ま、そんなことは言わないけど。
「蒼真が? また、どうして」
「生徒会の仕事の手伝いで……ってアレもしかして小鳥遊か?」
そこで俺はデモとして走ろうとしている小鳥遊を発見した。そして、一年生のみんなが彼女に注目しているのが分かった。
やはり、インターハイに出場したという事で有名なのだろう。
「うん? そうだけど、アンタたちって知り合いだっけ?」
「いや、今日初めて話した」
「今日って、アンタね……あっ、もしかして優華狙い? 生徒会うんぬんはただのこじつけでしょ」
「はぁ? 何バカなこと言ってるんだ。ホントに生徒会の仕事の手伝いだって。ほら、部活紹介のヤツ。これを回収してるの」
「うわぁ、本当だ。蒼真のくせにそんなことやるなんて……頭、大丈夫?」
「ご心配どうも。だけどこれでも正常なの」
そんな言い合いをしてると小鳥遊が走り出したのが見えた。
その時、俺の中での時間が止まる。
小鳥遊の一挙手一投足に目を奪われる。
――綺麗だ。
俺には専門知識など無いがそんなのは関係無くただそう思える。
見ていて飽きない。今日初めて話した対面した時とは違う魅力がそこにある。
結局俺は小鳥遊が走り終わるまで魅入ったままだった。
「しっかり見てるじゃない。何が生徒会の手伝いよ」
その聞こえてきた声で、俺は佐山と話していたことを思い出す。
「いや、これはだな……初めて小鳥遊が走ってるところ見たからついな。あと、手伝いはホントだったろ」
「フンッ、どうだか」
「どうだかって佐山、普通偽造してまで見に来る奴なんていないだろ。それもはやストーカーだぞ?」
「てことはあんたは優華のストーカーってことね」
「ちげーよ!」
佐山は俺が生徒会の手伝いをしてることを信じられないのか、それともネタなのか、俺が小鳥遊を見に来たということにしたいらしい。
どっちにしろこのままじゃ、本当にストーカーの烙印を押されそうだ。それだけは勘弁してほしい。
「いいからお前は一年生に何か言ってやれ。困ってるぞ?」
とりあえずそう言ってこの場を逃れることにする。
「あっ、みんなごめんね」
佐山はそう謝ってから、
「優華には熱烈なファンができたって言っておくから。それじゃ次行こっか」
そう言って別のところに行ってしまった。
熱烈なファンって……ていうか部長の場所教えてもらってないし。まぁあの佐山から聞き出すのは無理か。となると他の人に……って話したことあるのってあとは小鳥遊しかいないんだった……
友達が少ないとこういう時に困るので大変だ。別に小鳥遊が嫌って訳じゃなくて、今日初めて話した人との会話はいつでも緊張する。そのためなるべく避けたかったんだけど……
「この際、仕方ないか」
俺は腹を括り小鳥遊に話しかけるとした。問題はどんな感じにいけばいいかだけど……
そうして色々と頭の中でシミュレーションをしてみたがどれが正解かは分からない。結局出たとこ勝負のようだ。
俺は緊張しないように無心で小鳥遊のところに向かった。
そこにいた小鳥遊はもう走ってる時は違う、普通の美少女の小鳥遊がいた。やはり、二つの小鳥遊は同じで別ものに感じられる。
「よっ、お疲れ」
そして、それが俺の第一声だった。やはり、緊張してしまうが最初程ではない。
「あれ、如月くん? あ、もしかしてさっき香織と話してたのって」
「そう、俺」
「そうだったんだ。走り終わったらたまたま見えて気になってね。なんか仲良さそうだったし如月くんって香織と友達なの?」
「うん、まぁ、そんな感じ。一年の時からかな。そういう小鳥遊も?」
「うん。私は同じ部活だし、それでよく話してら自然とね」
「そっか」
そう言えば小鳥遊と佐山って名前で呼び合うくらいには仲いいんだ。今気づいた。
というか俺、小鳥遊と普通に話せてるな。それも今気づいた。
「それでどうしたの? 何かの用事ってもしかして補助委員の……?」
もう少し話したいかも、と欲が出てきた時にそう小鳥遊に訊かれた。
「あ、ああ。うん、そんなところ。部活紹介の紙の回収を頼まれてね。それで、部長はいる?」
「いるけど、……本当にごめんね。押し付けたみたいになって」
小鳥遊が申し訳なさそうな顔でそう言ってくる。
「いや、小鳥遊は何も悪くないから。だからそんな顔しないで」
そう、小鳥遊は悪くない。これは全部我らが担任の計略なんだから。
それにそんな顔されると、すごく居心地が悪くなるから出来ればやめてほしいです。
「今度何かあったら私もちゃんとやるから。今回はホントごめんね」
「いや、本当に謝らなくていいから。というかもう謝らないで」
何か周りから変な風に見られてるのに気づいてよ!
「でも……うん、如月くんがそう言うなら。それなら今回はありがとう」
「いや、感謝されるようなこともしてないから。でも、まぁ、謝られるよりかは数倍いいね。それよりも部長はどこかな?」
俺は別の意味で居心地が悪くなったので、仕事に逃げることにした。
「部長ならトラックの中央にいるよ。私も付いていこうか?」
「いや、いいよ俺一人で。小鳥遊は練習やってた方がいいって。怒られるぞ?」
「少しくらいなら平気だよ」
「いや、まぁ、そうかもしれないけど……でもこんなの一人で出来るから大丈夫。ちょっと話聞いてプリントもらうだけだし」
「そっか……分かった。じゃあまた明日ね」
「ああ、また明日な」
そう言って俺は小鳥遊から離れ、部長のいるところに行った。
部長に話をするとお馴染みの疑問も訊かれてから、プリントを渡してくれた。
「これで全部よしっと」
そうして、俺は最後のチェックを付ける。
「結局全部活出来てるし……」
それなら早めに提出してほしいものだ。わざわざ期限ぎりぎりまで伸ばす必要もないはずだし、何より今日俺に仕事が回ってくることもなかったんだから。
まぁ、いまさらそんなこと言っても全部回収してるんだし意味は無いんだけどさ。
俺の手にあるクリアファイルには回収してきたプリとが綺麗に入っている。どこも趣向を凝らしていて退屈はしなかった。特に男子のだけの部と女子がいる部ではそのデザインもセンスも全く違っていてそれが面白い。
「もう暗いのにまだやるのかね」
もうそろそろ十七時を回る頃だ。この時期は日の入りも早くこの時間帯だと結構暗い。
確かに照明もあるけれど、四月でまだ寒いしちょうど止め時だとはもうけど……
「ま、それは俺には関係ないか」
部外者が口出しすることではないと思いつつも何となく俺はトラックを一度だけ見てみる。
そこには当然だが人が走っているのが見えるだけで、部活はもう終わるのかどうかは判断できない。
ま、頑張ってくれ。
俺はそう思って生徒会室のある特別棟の方向に足を進めた。その時、誰かに見られているような気がしたがそれは流石に気のせいだろう。
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