第2話 楽だった委員会
放課後になった。
いつもならこの時間は家に帰っているのだが、俺は未だに学校にいた。それも教室の目の前の廊下に、だ。
なぜこんな所にいるのかというと答えは簡単。ただ人を待ってるだけ。
教室からは晴れやかな表情で帰宅したり、部活に行こうとしている人が出ていっているが、未だ俺の待ち人は出て来ない。それもそのはずで、その待ち人は教室で掃除をしている。不幸にも学校初日から教室掃除を引き当てたらしい。
そしてこの待ち時間を俺は億劫に感じ、テンションがどんどん下がっていくのを感じる。別にそれは待ち人が嫌ってわけじゃない。これから二人で向かう先が嫌なだけだ。
「はぁ……」
人知れずため息が出る。
今になって初日からの補助委員としての仕事に嫌気がさしてきた。
何故かショートホームルームでも、職員室へ来るように岬先生に念押しされた。それが逃げるなと言っているように思えてしまいそのせいで益々行きたくなくなっている。
だが、俺は小市民。しっかりと言われたことはどんなに嫌でめんどくさくてもやる所存だ。……いい社畜になりそうだな。
「はぁ……」
もう一度ため息。
これ以上すれば幸福が全てなくなってしまいそうな勢いだが、二回だけで底をつきそうな幸福量とは我ながら残念過ぎる。
まぁ、それだけ俺の学校生活が灰色ということか。確かに学校に来て授業が終わればすぐ帰る、休日もほとんど家にこもる。これのどこをとってもバラ色とは言えないだろう。楽しければそれでバラ色とか言うかもしれないがそういうことじゃない。誰が男一人でキャッキャウフフしていて誰がバラ色だと思うか!
……やめよう。俺の人生が一気にしょぼく聞こえてきた。
億劫で嫌な気分の時ほど無駄で無意味なことを考えてしまうものだろう。
だから俺はそんなことを考えないようにスマホを取り出し人を待つという行為に集中した。
「如月くんだよね? ごめんね、今終わった」
俺がスマホをいじって人を待っているとそう話しかけられた。
誰の声かはよく分からなかったがどうやら俺のことを呼んでいるようなので視線をスマホから声のした方に変更。ただ、その声が女子のものだったので矛盾するかもしれないが予想はついていた。
「あ、ああ……小鳥遊か」
そして、そこに立っているのは予想通りの小鳥遊優華。今日から俺と同じ委員会の女子。そして今から一緒に職員室に行く子。
小鳥遊のことは同じ三年でも体育館で表彰されているところでは見たことがあるが、こんな近くで見るのは初めてだったりする。すれ違ったこともあるかもしれないけど、そんなは記憶に残らないからノーカンだ。
だから実際にこうやって見るとなんというか普通に可愛いということに気付かされる。明るいが大人しそうな感じで、陸上で邪魔にならないようにするためか髪をショートでまとめていてそれも似合っている。
「……」
そのため俺は少々魅入ってしまう。だって可愛いんだから仕方ないじゃん。
「……? 私の顔に何かついてる?」
ただ、ずっとそのままって訳にもいかないので、顔を逸らして次の言葉紡ぎ出す。というか不審がられたし。
「い、いや、何でもない。それじゃあ、行こっか」
「そうだね」
小鳥遊がそう言って俺たちは並んで歩き出した。
それからしばらく無言の時間が続く。
俺はこれといった会話も思い浮かばず、ただ歩くマシーンと化している。
これが女経験の少ない男子という奴だ。もっと経験のある奴なら気の利いたことを一つや二つは言ったり色々と褒めたりするだろうが俺にはそんなスキルなんてない。……いや、いきなり褒めだしたら単なるナンパか。
そして、俺が人見知りだということも大きく関係してくるだろう。女子との会話なんて大抵が業務連絡だし、気楽に話せるのは佐山だけだ。こうも一緒に何かをするなんてほとんどないので対応できていない。
ただ、俺はこういう無言の空気が微妙で嫌いだ。俺たちの向かっている職員室は一階にあるので俺たちのいる二階からは遠くないと言えばそうだが近くもない。その間この状況が続くのは精神的に辛いものがある。
難儀な性格をしていると自分でも思う。だけどそれが俺なので仕方ない。
さて、どこかに会話の糸口はないか……
いろいろ考えてみる。容姿はデリケートだからダメというかそれナンパ。好きな食べ物とかはやっつけ感が半端ない。となると好きな教科とかも意味分からんし、それ訊いてどうするの?って感じだろう。はぁ……全く思いつかん。
そろそろ諦めてこのままでいようかと考えた時、たまたま小鳥遊の手に持っている物に気付いた。
……? これは靴袋か? お、いいの発見。
俺はそれを会話の糸口にすることにした。
そして、気付かれないように小さく深呼吸をして緊張を落ち着かせてから話しかけた。
「この後部活でもあるの?」
「……? あ、これ? そうだよ。これから外で部活なの」
「マジかよ……外は寒いし雪はまだ残ってるって言うのに、陸上部は大変だね」
今はまだ四月。この時期の北海道に完全な雪解けを期待することは出来ない。
「あれ? 私の部活言ったっけ……?」
と小鳥遊は寒いうんぬんよりも俺が部活を知っていることに驚きを見せた。
「いや言ってないけど、でもこの学校の同学年で小鳥遊のこと知らない人はいないでしょ」
「そう、なのかな……?」
「そうじゃない? だって校内唯一のインターハイ出場者なんだから」
「そんなもの?」
「……そう言われたら自信無くなるけど、俺は少なくとも覚えてたぞ?」
「それは如月くんの記憶力がいいからじゃない?」
「そんなものか?」
「きっとね」
俺の記憶力がいいかは誰かと比べたことが無いからよく分かんないけど、確かに過去にあった些細なことを覚えてたりする。どこどこで大けがをしたとか、あの時のアイツの好きな人はあの人だったとか。
つまりこれもその一つということか。
「そうか。ま、外でやるって言うなら風邪とか怪我とかしないように頑張ってくれ」
「うん、もちろん。そう言えば如月くんは部活やってないの?」
「いや、何もやってないよ。ただの帰宅部です」
「そうなんだ」
「……」
「……」
意外と話は続いたが俺の返答が微妙だったのかそれで止まってしまった。
……やっちまった。自分で会話を終わらせちまった。でもあれ以外にどう言えばよかったんだ? 「俺○○部なんだ」と嘘でもつけと? それこそバカだろう。俺の知らないことを聞かれて墓穴を掘るだけだ。
出来る男ならここで別の話題にチェンジするのだろうが俺にはやっぱりそんな技術は無いので出来なかった。そのため、また無言の時間が続くのかと思ったが、目の前にある名前のプレートが現れた。
――職員室
意外と長い時間話していたみたいでタイミングよく着いたようだ。
一瞬救世主の様に感じたが、そこは魔窟だ。俺の苦手な空間である。
大人という空気を嫌でも感じさせられるので出来れば入りたくはないんだけど、呼び出されている身なので仕方ない。バックれるといった勇気もないし、何より小鳥遊に迷惑が掛かるからそもそもそんなことをやる気はないけど。
「失礼します」
とりあえずここで突っ立ってても変な奴に見られるので俺は軽くノックをし扉を開けてからそう言って入室した。小鳥遊も同じようにしたようで後ろから同じような言葉が聞こえてきた。
中に入ると『誰だ?』みたいな目で見てくる教師がいる。条件反射のようなもので悪意はないんだろうけど、そんな目一つでも生徒は嫌なものだからやめてほしい。
そんな視線から逃れるように少し見回すと、三年生の担任たちがいるデスクのところに岬先生がいた。
俺がそこに向かって歩き出すと後から小鳥遊がついてくる。
「お、待っていたぞ」
そして、岬先生の前まで来るとそう言われた。
先生のデスクはきれいに片付いてる。やはり数学教師ということで効率的な人間のようだ。今はノートパソコンが開いているので何かしらの書類を作っていたのかもしれない。まさか、ネットサーフィンということはないだろう。その横にはコーヒーの入ったカップがあり、どこか教師と言うよりかはOLに近いような気がする。
「えっと……俺たちに何か用ですか?」
「そうだ。今から生徒会室に向かってくれ」
「生徒会室ですか。そこに何かあるんですか?」
「あのなぁ、あそこは人がいる場所であって物を置いておく場所じゃないんだぞ?」
「いや、それは分かりますけど」
だけど俺たちの仕事って先生の手伝いだよな? それも荷物運びとかの。ならどうして……
「如月、なら分かるだろ? 生徒会室にいる生徒会長が困ってるからそれを手伝ってやれ」
「……は?」
いや、全く分からないんだけど。『生徒会長を手伝う』って何ですか? そんなこと、学事補助委員の仕事と違う気がするんですけど。ちょっとどういうことです?
「えっと、それが学事補助委員の仕事ですか? 私この委員会初めてで分からないんですけど」
と俺が遺憾の意を心の中で示していると小鳥遊がそう訊いた。
「そうだぞ」
違うだろ! これはもっと楽な委員会のはずだぞ。
そんな俺の思いがこもった視線に気付いたのか岬先生は一度俺のことをチラッと見てからまた話し始めた。その時の先生の視線は獲物を見つけた狩人のように鋭く、俺の考えを見透かしているようだった。
「小鳥遊がどう思っていたかは知らないが、学事補助委員とはその名の通り、学事――つまり学校行事にかかわることを補助する委員会だ。だから、学校行事において何かしらの不都合が起きたらそれを助けなければならないんだよ。そして、今回の生徒会長の手伝いもその一環ということだ」
「そうなんですか……」
いや、全然違うから。そんなこと去年も一昨年も全くしてないから。
「なんだ如月、不満そうな顔だな」
俺の考えを読んだのかそれとも表情に出てたのかは分からないが、岬先生は獲物を小鳥遊から俺へと変更した。
「いや、そういう訳じゃないんですが、ただ去年とかと仕事内容が違うなと思いまして」
俺は爆弾処理のごとく丁寧かつ慎重に先生のその考えを否定していく。俺にとって都合のいい結果を導き出すために。
「まぁそうだろうな。これは私の中での解釈だからな」
ただ、そんなことは意味もなく爆発した。
「な――」
俺はその言葉を聞いて唖然としたがそれが面白かったのか岬先生は笑みを浮かべている。
「如月、楽な委員会だと思っていたんだろ? はは、だが残念だったな。この委員になったからには楽ができるとは思わないことだな」
「――」
やはり、俺のことはいろいろと見透かされているようだ。もはや何も言えない。
「私は今回担任を持つ際に生徒の情報は貰ってるから、そこでクラスの生徒がどんな人間かは大体理解してるからそう驚くことでもない。だから如月のことをある程度は知っている」
「例えばどんなことですか?」
ちっぽけだが、少しでも違ったら指摘してやるつもりだ。そうでもしないとやられっぱなしで、癪に障る。
「例えば如月は全体的楽をしたがるとかだな。ただ、やれと言われたことはやると言ったところか。まるで社畜……いや奴隷みたいだな」
「……そうですか」
ぐうの音も出ないほどあっていた。あと先生、言い直した方が酷くなってるから。
「ま、そういうことだ。だから早く生徒会室に行ってこい。後悔してももう決まってるものはどうしようもないぞ?」
「はぁ……分かりました」
俺は後悔や大人の理不尽さを飲み込んでそう言った。
「そうか」
岬先生からの言葉は短くそれだけだった。
「あ、そうそう。小鳥遊はこれから部活があるんだろ?」
「ありますけど……」
「それなら手伝いは何もやってない如月に任せて部活に行っていいから」
「えっ……?」
「えっ……?」
俺一人ですか?
「今日如月と一緒に呼んだのはこの委員会に対する説明をするためなんだ。どうせ如月はこの委員会について誤解をしてるだろうし、小鳥遊は知らなかっただろうからな」
誤解じゃないですけどね。先生が事実をねじ曲げたんですけどね。じゃなくてマジで俺一人なの!?
「そう、なんですか」
「だから部活に行っていいぞ」
俺は岬先生のその言葉が「如月に全て任せろ。異論はないよな?」と暗に言っているように聞こえてしまった。
「わかり、ました……」
小鳥遊も俺と同じようにとらえたのかどこか曖昧な口調で肯定を返した。マジで俺一人のようだ。
そして、小鳥遊がそう言うと話は終わりという空気になる。俺に反論する余地はなかった。
「それじゃ二人とも行っていぞ」
さらに空気だけでなく岬先生にそう宣言される。
そうなればもはやここにいてもどうしようもない。さっきの決定が覆るならここで座り込みをする所存ではあるがそれも意味をなさないだろう。まぁ、俺にそんなことをやる勇気なんてないんだが。
なので俺たちは職員室を出ていった。
職員室から出ると俺と小鳥遊の間に流れている空気は微妙だった。
それが二人きりだと気まずいなどと言った甘い物だったらどれほどよかったものか。
「大変なことになったね」
「ああ、そうみたいだな」
本当に大変なことになった。
一番楽だと思っていた委員会が実は一番めんどくさかったと言うのは衝撃の事実だ。それならそれで先に言っておいてほしい。そうすれば別の委員会にしたってのに。こんなオチは岬先生以外には誰も望んじゃいない。
でも、まぁ、やれって言われたことはやるけどさ。それがどれだけブラックな仕事だとしても……ホントお手本のような社畜だな。決して奴隷ではないぞ。
「はぁ……とりあえず俺は生徒会室に行くわ」
「あ、じゃあ私も――」
「いいよ俺一人で。さっきも言ったけど帰宅部だから何もやってないのは確かだし、小鳥遊は部活があるんだろ?」
「そうだけど……でも」
「いいって。きっと軽い手伝い程度だろうし、一人で大丈夫だから」
「う、うん……」
小鳥遊は本当に申し訳なさそうにしながらようやく頷いた。
「じゃあ、俺はこっちから行くから。部活頑張れよ」
「うん、ありがとう。じゃあね」
そうしてお互い別々の目的地へ向かっていった。
※※※
俺が向かったのは特別棟だ。
そこには美術室や物理室などの通常教室以外の教室があり、当然そこに生徒会室も含まれている。
三階建ての特別棟の三階まで登るとそこにはラスボスがいる部屋の様に生徒会室がある。一番上にあるのがまさにラスボス感を匂わせる。
まさか、俺がここに来ることになろうとは。一度も縁がなかったから近寄りもしなかったのに、三年になってその縁がやって来るとは思わなかった。確かに一度くらいは入りたいと思ったけど……それが不幸な出来事によるものだから何とも言えない。
今はその生徒会室の扉の前で着ている。ここまで来て何もしないわけにもいかないのでとりあえずノックした。
「どうぞ」
すると中から扉のせいでこもったような声が聞こえてくる。聞こえてきたのは女子の声だ。
ただそれは当然のことで笠原高校での生徒会メンバーは全員女子で構成されている。中学の時もそうだったが生徒会というものを男子はやりたがらないのかもしれない。当然俺もやりたくない。
そのため声だけでは判別しにくいがおそらくさっきの声は全校集会とかで見る生徒会長のものだろう。理由は簡単、俺が手伝う相手がその人だからだ。
「失礼します」
俺はそう言いながら中に入った。
初めて生徒会室というのを見たが、とても立派という訳では無いようだ。机も通常の机じゃないだけで単なる長机だし、椅子もふかふかした高級感のある奴じゃなくてパイプ椅子だ。想像よりも意外と陳腐だった。
ただそう思ってしまうのは俺の先入観のせいだろう。どうしても『生徒会』という物を特別視してしまう。やはり、トップの組織はそれだけ特別に見えてしまうのかも。
「何か用ですか?」
俺が生徒会室に対しての感想を抱いてると目の前の上座のような所に座っている女子にそう言われた。やはりよく見たことある生徒会長だ。
そして気づいたが、彼女以外は誰もいない。そのためここが孤独な空間に感じ、目の前の少女に注目してしまう。
キリッとした顔立ちと黒くて長い髪の毛、この人は可愛いではなく綺麗という言葉が似合う。
また、生徒会長という職、そしてその容姿から目の前の女子はお嬢様という言葉も似合う。というか本当にお嬢様なのかもしれない。
まぁ色々御託を並べたけど、簡単に言ってしまえばかなりの美少女、と言うよりかは美女だということだ。
そのため俺は生徒会長に注目以上に見とれてしまった。
「あの、私の顔に何か付いてる?」
「えっ! いや、何でもない何でもない。気にしないで」
「そう……?」
そう言われて俺は焦った。今日二度目の失態だ。
いかんな。これじゃ単なる変態な気がする。さっきは小鳥遊で今は生徒会長とは……でもまさか一日で美少女と美女の二人と話す日が来るなんてな。そういった意味では補助委員になって良かったかも。
「それでどうしたんですか? 何か生徒会に用があって来たのでしょ?」
「あっ、そうそう。えっと……俺は岬先生に言われてここに来たんだけど……」
「岬先生に……ってそう言うこと。あなたが学事補助委員なのね。岬先生から来ることは聞いているわ」
「そうか」
俺が来ることはあの時点で決定事項だった訳だ。もし俺がごねたらどうしたんだろう? ……実力行使かな? その内容は知りたくない。
「ねえ、補助委員はあなた一人なの? 一応あれも二人一組でしょ?」
「いや、もう一人いるけど今回は俺一人ってだけ」
「そうなの、まぁいいわ。とりあえず立ったままってのも何だし、空いてるとこどこでもいいから座ったら?」
「分かった。それならここに」
俺はそう言われて生徒会室に入って一番近くにあったイスに座った。するとその正面の椅子まで生徒会長が歩いてやってくる。
その時、さっきは座っていて分からなかった彼女のスタイルの良さに気づかされまたもや見とれそうになるが、なんとか自制する。一回目も怪しかっただろうが流石に二回目となるとバレるだろう。
また、初対面の相手でこうも綺麗な人と面と向かって話すとなると緊張してくる。小鳥遊と初めて話した時と似たような感覚だ。
「とりあえず、自己紹介をしましょうか。私は三年F組の
そんな俺の思いを知る訳もない生徒会長――月詠は何も気負うこともなく普通に自己紹介をしてくる。意識しているのは俺だけのようだ。
俺は彼女の名前を初めて知ったけど、月詠って苗字はなんとなくかっこいい。なんか和風な感じがして意外と好きな苗字かもしれない。
ただそんなことを考え続ける訳にもいかないので俺も平静を装ってから普通に自己紹介をした。
「俺は三年B組の如月蒼真。こちらこそよろしく。それで俺に手伝ってほしいことがあるって聞いたけど、俺は何をやればいいんだ?」
やはり、何か気の利いた話は思い浮かばないので要件をさっそく訊いた。というか雑談をしに来た訳じゃないし、本音を言えばとっとと帰りたいので早く聞かせてほしい。
「そうね、今週は部活紹介があるのは知ってるでしょ?」
「ああ、一年に見せる奴だろ?」
「そう、それのパンフレットのようなものを作るんだけど、内容は各部活に任せてあるの。その提出期限が明日なんだけど念のため今日貰って来てくれないかしら」
「はぁ……いやでも、それなら明日でもよくない? わざわざ今日じゃなくても……」
「そうなんだけど。去年はそれで提出が遅れた部活があって色々と不都合が出てしまったの。それで今回は早めに提出してもらおうってこと。もしかしたらまだできてないかもしれないからその場合は催促してくれると助かるわ」
「一応訊くけど、他の生徒会メンバーは?」
「別の仕事よ」
「そうですか」
俺の他の人に任せよう作戦は不発に終わった。ま、これには最初から期待してなかったのでそこまで落胆はしない。
それにしても、聞いた限りだと非常にめんどくさい。話したこともない部活の人と話して、出来てなかったら催促してとか俺にとっては重労働だ。……でも、やるよ? 言われたことをやるのが俺のアイデンティティのようなもだから。
「……分かった、やるよ」
まぁ、当然しぶしぶだけど。
「それでどこの部活に行けばいい」
「ここにそのリストがあるわ。ここに書いてる所に回って、チェックボックスに提出できるかどうかをチェックをつけて」
「はいよ。えっと……」
俺は月詠からそれを受け取りなんとなくそのリストを眺めてみる。
えっと……卓球部に手芸部、バスケ部は何か納得だわ。他には……
「……陸上部」
俺はそう小さく声に出してしまった。
今日は何かと陸上部と言うか小鳥遊と縁があるらしい。だから何だって感じだけど。
「終わったらここまで戻ってきてね」
「分かったよ。荷物はここに置いておいていいか? どうせ戻ってくるんだし」
「構わないわ。それじゃよろしく」
「はいよ」
俺はそう言って立ち上がり、生徒会室から出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます