最後の五分前、この場所に来た

仁志隆生

最後の五分前、この場所に来た

 この賑やかな催しも、あと少しでおしまい。



 あっちを見ると、多くの人が集まってワイワイと話している。


 あの人達はきっと、この催しを目一杯楽しんだのだろうなあ。


 ふふ、あの中の誰かが後でもっといい思いをするかもね。



 こっちを見ると、時折チラチラと腕時計を眺めている人がいる。


 もしかしてこの人、最後の瞬間に何かしたいのかな?


 そういうのもいいよね。



 向こうを見ると、ゼイゼイと息を切らしている人がいた。


 たぶんずっと忙しくて、やっと時間を作って来れたってとこなのかな?

 

 とにかく間に合ってよかったね。


 

 そういう僕はというと、初めは遠くからこの催しを眺めていただけだった。

 

 だけど眺めているうちに思った。


 楽しそうだなあ、うーん。どうしようかな。僕も行こうかなあ?


 うーん、よし!


 意を決した僕は急いで準備を整えて、ついさっき、終了五分前にこの場所にやって来た。

 

 



 そう思っているうちに時間が過ぎていき、あと二分となった。



 キョロキョロして辺りを眺めている人がいる。


 じっと目を閉じている人がいる。


 笑っている人がいる。


 ちょっとしょんぼりしてる人もいた。

 

 でもさ、後で思い出して「あの時間は無駄じゃなかった」となればいいのにね。


 

 あと一分。



 おお、こんな間際に駆け込んで来た人が。


 ふふ、「滑り込みセーフ!」って叫んでいるよ。


 あなたも間に合ってよかったね。




 あと三十秒。




 二十秒。



 十

 

 九


 八


 七


 六


 五


 四


 三


 二


 一


 

 ゼロ。



 ある人には長い、ある人には短い催しが終わった。

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最後の五分前、この場所に来た 仁志隆生 @ryuseienbu

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