終息

 やがて、隣町から救急車と警察がやって来て、村人達は関係者を除き神社から締め出された。祖父は事情聴取を受けるために残ったが、私と父はお咎めなく祖父母宅へと戻ることが出来た。

 祖父が帰宅したのは午後九時を過ぎた頃であった。

 いつもより大分遅い夕食を摂りながら、祖父は、警察から聞いたという情報を話し出した。

 まず、里美の死亡推定時刻が午前十一時頃だということ。

 遺体の第一発見者として警察から疑われた祖父を含め、私の家族は全員、この時間には家に居た。村人全員にもその時間の所在確認が取られ、アリバイが証明されなかったのは片柳老人と鋏上巫女の二名のみだったという。さらに両名の証言から、鋏上巫女は午前十一時より前から薪の伐採所に居たことになる。従って、犯行可能なのは片柳老人だけなのだが、結局、その方法が分からない。足跡による密室が最後の障壁となっている状態らしい。

 警察は蔵の中および周囲を調べた後、伐採所へも赴いたが、特に不審な点は見当たらなかったらしい。鋏上巫女の住居でもある神社の中を調べている最中、怪しげな薬品が見つかり現場がどよめいたが、何のことはない美容用品のクエン酸で、それ以上の変わったものはついに見つからなかったそうだ。

 同様に片柳老人の小屋も調べ上げたようだが、犯行の証拠になるようなものは一切見つからなかったらしい。

 唯一、収穫があったのが例の焚き火だ。焚き火の跡からは繊維の燃えカスが見つかり、血液反応も検出されたという。何者かが証拠隠滅を図ったとみて間違いないという。

 話し終えた祖父は「今日はもう休む」と言い、寝室へと引き上げていった。

 次の日、その次の日と、事件に進展の無いまま、両親と私は曳谷村を後にすることとなった。

 一週間後。新聞の地方欄に小さく、血吸い蔵の事件が取り上げられていた。容疑者として勾留されていた片柳老人が拘置所のなかで自殺したという記事であった。容疑者の自殺は罪を認めたものと見做され、事件に幕が降ろされた。真相は闇へと消えてしまったのだ。

 この事件から六年経った一昨年の七月、大学生となった私の耳に、あるニュースが飛び込んできた。

 曳谷村のあの血吸い蔵で、子供の死体が発見されたらしい。蔵は密室状態で、死体におびただしい出血の跡はあるが、そのまわりに血は無く、誰かが拭き取ったとしか思えない状況だったという。

 どうやら血吸い蔵の事件はまだ終わっていないらしい。それが呪いによるものなのか、人の仕業なのかは分からない。私にできるのは、数年後、同様の惨劇が起こらぬよう祈ることだけである。

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