縫製されるふたり

「なんてことしたのよぉ」

 涙に沈む視界の中、気まずそうな顔をした夫と、私が大切に育てていたアオジタトカゲが揺らめいていた。後者は、見事なクラッチバッグに姿を変えていた。

「鞄屋さんが来たんだよ。お前が出かけてる間に」

 彼の頬を平手で張ってからトカゲに駆け寄り、縫いつけられた頭に触れる。無機質な手触りがした。もう、あの青い舌を見せてくれることはないのだ。

「でも、お前だって俺の兎を鞄にしただろ」

 夫が私が持つハンドバッグを指さす。ガラス製の目玉や長い耳と目が合った。

「どうしても欲しかったの」

「俺もだよ」

 彼がクラッチバッグを手に取り、小脇に抱えた。自分の鞄とそれを見比べる。もうどちらも、生き返ることはない。



(お題……『鞄』 本文300文字)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る