コンクリート海のヒトデ

 職場でひとりキーボードを叩きながら、周りのこいつらは私がヒトデの格好をして夜な夜な町を歩いていることを知らないんだな、と思った。昨日食べたケーキのこと。上司の愚痴。お昼に来たキモい客の話。きらめく雑談が、次々と私をすり抜ける。

 退勤後、家でヒトデに着替えて外へ出た。街灯の中、だいたいの人はあぜんとしたり陰湿な笑みを浮かべたりしている。が、その中でわずかに同質の気配を感じることがあった。見えないそれに励まされるように、私は町の中を軽やかなスキップで練り歩く。

 でもやがて、会社での扱いが頭をかすめると、ヒトデ肉は剥がれていく。街灯が、にじみ始める。ねえ皆。私は、本当は面白い人間なんだよ。嘘じゃないよ。




(お題……『演じる』 本文300文字)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る