ロードキル

「しまった」

 運転していた車を降り、私の死体を見るとあなたはそうつぶやいた。私はそれを光のない瞳で見あげる。あなたの表情は霧に囲まれぼやけていた。

 心の中であなたは言い訳をする。霧が出ていたから。家にいる妻が心配で急いでいたから。もうすぐ、その彼女が出産するから……一〇個もそれらが並べられたころには、あなたは妻の待つ家にいた。道路の上の私をそのままにして。

「さっき狸を轢いちゃったんだ」

「やだ縁起悪いなあ。もうすぐなのに」

 あなたの妻は大きなお腹をなでて笑う。あなたも笑う。窓の外の霧はどんどん濃さを増していくようで、先ほど轢いた私がお腹の大きな狸だったんだということを、あなたは言えずにいる。



(お題……『霧』 本文295文字)

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