たくわえ、冬ごもりが終わったら

 昼寝から覚めると、口の渇きと空腹を感じた。洗面所に向かい、鏡に自分を映すと、まごうことなきツキノワグマがそこに立っていた。案外、驚きはやってこず「あー熊になってしまったか」程度の他人事のような考えが浮かぶ。

 うがいを済ませ、冷蔵庫にあったりんごやぶどうを皮のままかじっていると、携帯が着信した。『彼氏』と画面に表示されている。そういえばまだ、名称を変えていなかった。

「寂しい思いをさせた。やりなおしたい。お前がいないとやっぱり」

「無理」

 私、熊になってるから。そう言いかけてやめる。そうやって、脂肪をつけて冬ごもりが終わるまで、ずっと不安になっていればいいのだ。そして二つの季節をまたいだら、きっと。


(お題……『秋』 本文298文字)

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