忘れた

 村長は、ときどき各家庭にきのこを配りにやってくる。なめこを大きくしたような見た目で、焼くとすごくおいしい。

 ある日の夜、家に村長がやってきて、俺の兄ちゃんの手を取り外に連れ出そうとした。両親はそれを見て深刻そうな顔をし、村長は涙目でうなずいた。当の本人は笑っていた。

「心配すんな、お土産を持ってくるから」

「本当? 絶対ね」

 しかしその日以来、兄ちゃんは帰ってこなかった。両親に尋ねても、たまに届くきのこを食べながら怒られるばかりで、なにも答えてくれない。

 変なことを言った罰として、古くなった着物をごみ捨て場に運ぶよう言われる。見覚えのない、女の子用の着物だった。兄ちゃんはまだ帰ってこない。


(お題……『約束』 本文292文字)

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