3

 私は絵の女性を見た。この人は一体誰なのだろう。凛は自分では無いと言ったが、私にはそうは思えない。


「あなたの精神が病んでしまったのは、結婚相手が結婚前日に無くなってからです」

「結婚前日とはまた急だな」

「ええ、身体が弱い体質で、だからこそ優しいあなたは特に入れ込んでしまったのでしょうか」


 ああ、私は一応優しい人間だったのだな。少し安心した。


「この家に鏡は無いのですか」


 また前触れもなく凛は言った。


「無いよ」


 心が病んでしまった者にとって鏡は良くないからと、記憶喪失になる前にこの部屋から鏡は捨ててしまった様なのだ。


 まあ記憶を失った現在、私は極力誰とも会わないし外にも出ないので、やはり鏡は必要なかった。


「そろそろ君の事を教えてくれないか」


 私は凛の事が知りたくて堪らなかった。何故こんなにも好きになってしまったのか、今でも信じられないくらいだ。


「私はあなたの娘です」

「なんだって!?」


 驚愕のあまり私は声を荒げた。


「すると私は、娘に惚れてしまっていたのか!」

「あら、惚れてくれていたのですか。嬉しいです」


 凛はそんな戯言を言って照れた。


「養子として私はあなた方に引き取られました。そして私は結婚相手がいるあなたに恋をしてしまったのです」

「私達はどうして凛を引き取ったのだろう。自分達の子供はどうしたのだ」

「子供が埋めなかったからです。その事実もあなたを苦しませた。結婚相手が亡くなって、愛の形は一生残せなくなってしまったから」


 悲しい事実である。少し肌寒くなったので、私は開けた窓を閉めた。


「お茶がまだだったね」


 私はキッチンに向かう。お茶っ葉はあるかな。

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