スマホをドーン!
親というのは、たまに子供の過去の傷に塩を塗る。
それが、子供にとってどれだけ負担かなんて考えないものだから、余計に厄介だ。
しかも、幼馴染の結婚の話を聞かされ、妊娠の話を聞かされ、お金がかかることに落ち込んでいる中で、元カレの話を出してくるなんて、母もかなり悪意がある。
そもそも、この段階で元カレの話を出したところで、私に何かメリットがあると思ったのだろうか。
その母の頭の中を覗いてみたいものだ。
どんな思考になっているのだろうか。
理解不能だ。
壮一は、中井壮一。二歳上の彼氏だった。
別れたのは二年前。付き合いだしたのは四年前。私が二十五歳、壮一が二十七歳の頃だった。
出会いも付き合いも他力本願で、当時の職場の同僚に勧められて、同僚の人が壮一と私に「付き合っちゃえば?」という飲み会の流れで、お互いに好きかどうかもわからないまま。第三者の意見で付き合った。
ロマンチックなことも何もない付き合い始めだった。
三年ぶりに男性と付き合った私は、最初は納得だらけの日々だった。休みの日には趣味に没頭するという日常から、休みの日は彼とのデートに変わることに、
「あっ付き合うって、こんな感じだったか!」
と納得する。
彼が夜景のきれいな場所に連れて行ってくれると。
「付き合うって、こんなにロマンチックなものだったか!」
と納得。
必要連絡以外、使っていなかった携帯のメールも、彼から頻繁にやってくるメールに返信している自分に、
「付き合うって、こんなに形態を触るものだったか!」
と納得。
納得する段階までは、よかったのかもしれない。
納得に慣れてしまったころ、私にストレスが溜まりだした。
彼と会う時間で、好きな趣味に没頭できない。仕事が終わって、疲れて、彼のメールを返して、大好きな品を読もうと思うと寝る時間。
彼は土日のどちらかではなく、頻繁に会いたいと思ってくれる人だったから、土日の両方とも会ったり、お泊りの日なんてあれば、趣味なんて後回しなのだ。
それに、なんとなく自分がアニメや漫画を好きだということを彼に言えなかった。
恥ずかしかったわけじゃない。
ただ付き合い始めたころに、私が少しアニメの話をしたところ。彼は極端に興味のない態度を取ったのだ。
でも、それはまだ私が付き合うことについて納得している段階だったから、その態度に苦痛やイラつきもなかった。
でも、彼には自分の趣味は話せないと思った。
それでも、やっぱり好きな漫画は読みたいし、アニメも見たい。
だから私は、仕事で疲れて、彼のメールを返して、眠くても漫画を読み、録画したアニメを観た。
でも惰性で観ていた。
睡眠を削って、読まなくちゃ、観なくちゃという義務感。
そんな中で、漫画を読んだり、アニメを観る自分が情けなかった。
作者が命がけで作ってくださっている物を、流しで観ている自分が嫌いだった。
そんな罪悪感で、涙が出る時もあった。
「ごめんなさい。」
そうやって謝りながら、漫画を読んだり、アニメを観てる自分は、今思うと、相当な情緒不安定だったと思う。
そんな生活を、二年も続けていたかと思うと、私もよく耐えたなと思う。
でも、それも自業自得だ。
よくわからない人と安易に付き合って、趣味が合わなくて、自分を自分で追い込んだのは自分自身。
壮一と付き合って一年半。
泣きながら漫画を読んでいるときに、悪夢のようなメールが壮一からやってきた。
「結婚を考えて、那月の両親に会いたいな。」
彼が結婚を考えていることを、その時私は初めて知った。
その驚きで、私はスマホをベッドにドーンと無意識に投げつけた感覚を、私は今でも忘れない。
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