彼女は鬼になりにけり②

「からかっていい話題でないのは重々承知なんですけどね」

「まぁな。あんなことしか言えない自分がほとほと嫌になる。当主当主とは呼ばれてるが、所詮俺達もただの無力な人間だと思い知らされるよ」

 予定があると去って行く淀盾の背中を見送りながら、猫屋敷と万屋は肩を並べて会話を続けた。

 反対側から狐と遊ぶ李由の笑い声が聞こえる。

 愛娘の楽しそうな声につられて万屋の口元が少しだけ緩んだ。

 ほんのひと時だけ現実を忘れられたような安堵の表情にもとれるそれを、猫屋敷は横目で眺めるだけに留める。

「告白、できるといいけどな」

「したところで答えは決まってますけどね」

「猫屋敷お前な……。まぁ、言わないで後悔するよりも言って後悔した方がいいと俺が勝手に思ってるだけなんだが。例え目に見えた結果だとしても、伝えなきゃ一生そのことが心にわだかまるもんさ」

「私は単にじれったい淀盾さんに苛々するだけです。彼にあんな思いをさせている己の力不足にも」

「全くもって無力」

「そうですね」

「万屋と猫屋敷、両家の当主が揃っても女の子1人の討伐命令をダラダラ伸ばすことしかできないなんてな」

 狐との戯れに満足した李由が2人の元へ走ってくる。

 この後、当初の目的だった『猫さん淀さんとお話する』ことができないとわかった瞬間の李由の機嫌の損ねようは凄かった。

【約束ねって言ったのに。約束は守らなきゃだめだって、お父さんが言ったのに! お父さんは李由との約束どうしてやぶるの?】

 笑ってはいけない。

 笑っては駄目だ。

 父親が約束を破ったことに怒り泣き喚く娘と、何とか娘の機嫌をとろうと宥め謝る父親。

 なんて普通で平和な光景だろう。

 ――あんな風に他愛無いことばかりだったらいいんですけどね。

 とりあえず、騒ぎを聞きつけ駆け寄ってきた狐に淀盾に変化するようお願いし、万屋へ貸しを作るべくひと芝居うつ猫屋敷だった。

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