第37話 リアの記憶

 リアは夢を見ていた。昔のころの記憶だ。その夢の中では、リアは幼い子供だった。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん」



 リアは兄の背中を見て育った。昔過ぎて、もうその顔も思い出せない。リアにとっては、淡い恋心を抱かせるような兄だった気がする。


 兄は『勇者』だった。少なくとも、リアにとっては唯一無二の『勇者』だ。リアはよく兄に守ってもらっていた。


 少し年の離れた兄は、幼いリアとよく遊んでくれた。川で溺れそうになったときは泳いで助けてくれた。山で迷子になったときはすぐに見つけてくれた。リアは、そんな兄が大好きだった。



「リアね、大きくなったらお兄ちゃんのような『勇者』になる。それでね、今度はお兄ちゃんを守ってあげるんだ」



 そんな夢を語るとき、兄は優しい目つきでリアを見つめていた。このとき、リアは『勇者』というものが何なのかよくわからなかった。だが、自分を助けてくれる存在。それが『勇者』だと思っていた。


 兄が、微笑みながらリアに語りかける。



「ありがとう、リア。でもね、『勇者』になりたかったら、俺だけを守っていてはダメだ。目の前で苦しんでいる人がいたら、誰であろうと率先して助ける。それが、俺の考える『勇者』ってやつだ」


「……?」


「ははは。リアにはまだ難しかったか。でもいつかわかるさ。リアは優しいもんな。きっと、立派な『勇者』になるよ」



 そんな兄の笑顔が見れなくなったのは、それから数ヶ月後のことだった。レオ王国とヴァルゴ王国との戦争に、兄が召集されたのだ。



「きっと、帰ってくるよ」



 その言葉が、リアが聞いた兄の最後の言葉だった。


 兄は、戦死した。

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