第31話 ハチェットの丘
ついにトラマルとリアはハチェットの丘に着いた。そこは、一面焼け野原の何もない場所だった。
「……本当に、何もないな」
「だから言ったでしょう? 何もないって」
数年前、ここで大規模な戦闘があった。その際、すべてが焼き尽くされた。町も、人も、そこで育った精神さえも……。
「戦争で得たものは少なく、失ったものは多い、か。だが、これが現実だ」
トラマルはハチェットの丘の頂上に向かって歩き出した。その後ろを、リアがゆっくりとついてくる。
「ねー。ここに来て何をするつもりなの? いい加減、教えてくれてもいいんじゃない?」
「何をするつもりか、ね」
トラマルは丘の上に着くと、そこにドカッと腰を下ろした。丘の上から眺める景色は、殺風景ながらも見晴らしのいい絶景だった。
「俺は、死ぬつもりでここに来たんだ」
「……え?」
丘の上に、一陣の風が舞った。
「し、死ぬつもりって、自殺ってこと!?」
「まあ、そうなるな」
「な、な、な、何で!?」
動揺が隠し切れないリアは、思わず犬のように這ってトラマルに接近してしまった。
「顔が近いわ! もっと離れろ」
「今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう! 死ぬなんて、何馬鹿なことを言っているのよ!」
「お前、俺を捕まえに来たんだよな? 俺が捕まるってことは、王国に処刑されるってことだぞ? 何を今更俺が死ぬくらいで驚いているんだよ」
「そ、それとこれとは話が別よ!」
トラマルにとっては別とは思えなかったが、リアが別と言うのならリアの中では別なのだろう。
トラマルは懐から七色の指輪を取り出した。
「俺が死ぬ理由。それは、こいつさ」
「……指輪? 確か、あんたが命よりも大切だとか言っていたやつよね」
「ああ、これはな。俺が仕えていたヴァルゴ王国の姫、マリア姫の指輪だ」
「へー。姫様の指輪ねー。道理で綺麗だと思ったわ」
リアはまじまじと七色の指輪を見る。王家の指輪だと知ると、その輝きはいつもよりも増しているように見えた。
「マリア姫は戦争の最後、ここで多くの家臣とともに焼け死んだ。最後まで自分も戦うと言って戦場に残ったんだよ。俺は、止めたんだがな……」
「……ん? もしかして、トラマルとそのマリア姫って、恋人……だったりした……の?」
「ああ。一応な」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「何でそんなに驚いているんだよ! そんなに意外か!?」
「意外よ! あんたみたいな男が、一国の姫と恋愛していたなんて、天地がひっくり返ってもありえないと思っていたわ」
「お前、やっぱり失礼なやつだな」
トラマルは多少不機嫌になったが、それでも話すのはやめなかった。いつもなら意地でも話さないトラマルなのに、今日は妙に饒舌だ。
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