第30話 甘いお菓子
「メリル様」
トラマルとリアが去っていったあと、どこからともなく動物のコスプレをしたビュレットの町の住民たちが出てきた。代表して、ウサギのコスプレをした人が前に出てくる。
「どうしたんですか?」
「報告に参りました。死傷者はなし。倒壊したアトラクションの数は八。細かいところでは、この町を囲むクッキーの壁が少々破壊されたことでしょうか」
「わかりました。私の魔法で、すぐに修復します。が、その前に……」
メリルは傷ついて動かなくなったサイゾウを見下ろした。サイゾウは視線だけで威嚇し、屈服しない気概を見せていた。
「怖いですね。そんなにも睨まないでください」
「生憎、俺はもともとこんな顔つきなんでね」
「そうですか」
メリルが右手を軽くあげると、ウサギのコスプレをした人がお菓子の入ったバスケットを持ってきた。メリルはウサギのコスプレをした人からバスケットを受け取ると、サイゾウの前に置いた。
「……何だ、これは」
「お菓子です。どうぞ、食べてください」
「……馬鹿にしているのか?」
こんな状況で、暢気にお菓子を食べるわけがない。第一、サイゾウは甘いものが嫌いだった。頼まれたとしても、お菓子などという甘いものは食べなかっただろう。
サイゾウの態度を見たメリルはバスケットの中のお菓子を鷲づかみにすると、乱暴にサイゾウの口の中に詰め込んだ。
「うごっ!」
「さあ。存分に食べてください。おいしいでしょう?」
メリルの顔は笑っていたが、同時に狂気も含んでいた。次々と詰め込まれるお菓子の山に、サイゾウは混乱しながらも飲み下す。一通り食べたのを確認してから、メリルはようやくサイゾウを放した。
「どうでした? 私のお菓子は?」
「む、無理やり食べさせられたら、うまいもんもうまく感じな……うっ!」
メリルと会話している途中、サイゾウの体に変化が起こった。体が熱い。力が湧いてくるのに、妙に喉が渇いた。それに、甘いものがほしい。目の前には、お菓子の残りがあった。
「お、お菓子……!」
サイゾウはバスケットを引き寄せると、貪りつくようにお菓子を食した。それでも、サイゾウの甘いものへの欲求は満たされない。
「もっとだ……もっとお菓子をくれ!」
「ふふふ。慌てないでください。お菓子ならいっぱいありますから。いっぱい……食べてくださいね?」
月の光が、サイゾウの影を薄くする。メリルの造ったお菓子の町は、やはりどこかおかしな町だったようだ。
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