第28話 二つの聖剣
シャドウ・スコーピオンを撃退したリアとメリルは、一息ついて剣を鞘に収めた。夜風がほてった体を冷ましてくれる。
「何とか、なったわね」
「はい。よかったです」
メリルは屈託のない笑顔をリアに向けた。その笑顔は、まさに純粋な少女の笑顔だった。とてもレオ王国最強の勇者とは思えない。
「それで、さっきの質問なんだけど」
「ああ、この聖剣レグルスのことですよね。確か、リアさんも王様からいただいたそうで」
「……も?」
リアさん『も』ということは、メリルも同じ聖剣レグルスをレオ国王からもらっていたということか。つまり、聖剣は二本あった。そういうことになる。
「聖剣レグルスは二本あった。いえ、正確にいえば、二本以上あったということです」
「二本以上!? 聖剣って、そんなにも何本もあるものなの!?」
「もちろん、本物は一本ですよ。ですが、レオ王国の複製技術により、精巧な複製品を作製することが出来るようになったのです。その複製技術で複製したものの一つが……」
「聖剣レグルス、ってわけね」
「はい」
確かに、それならばリアのような末端の勇者にも聖剣などという大それたものを授けるのも納得がいく。本物の聖剣でないならば、壊れても失くしても王国にとっては痛手ではないからだ。
リアがトラマルを発見できたことを考えれば、聖剣としての機能は本物と同等なものなのだろう。少なくとも、実用性はあるということだ。
「ね、ねえ」
「はい?」
「私がもらった聖剣って、贋物なのかな?」
「ん~。どうでしょう? でも、勇者候補に本物の聖剣をあっさり渡すとも考えられませんし、贋物の可能性は高いのではないでしょうか」
「も、もし、贋物の聖剣を壊したり、失くしたりしても、そこまで大事にはならないわよね?」
「あはははは。それはないですよ。贋物といっても、聖剣は聖剣です。その贋物を造るのにも、それなりのお金と魔力が消費されているはずですから。もし、壊したり失くしたりしたら、それなりの罰を受けないといけないと思いますよ?」
「は、ははは……。ですよねー」
このまま聖剣の件は流れてくれないだろうか、と思ったが、どうやらそうはいかないようだ。やはり、少なくともシャドウ・スコーピオンのリーダーであるサイゾウ、もしくは〈影の一族〉であるトラマルを捕まえて聖剣を返してもらうしかない。ついでに任務も達成すれば、聖剣を折ったことも不問にしてくれるかもしれない。
「それしか、ないわよねー」
リアは現状を確認し、深くため息をついた。
「そういえば、トラマルとサイゾウと言えば……」
リアは二人が戦っている観覧車のアトラクションの方面を見た。その瞬間、大きな爆発が起こる。
「な、何!?」
巨大なお菓子の観覧車がゆっくりと倒れていく。その様子を、メリルは悲鳴をあげて眺めていた。
「わ、私の観覧車がぁ~!」
メリルはかなりの少女趣味だった。ビュレットの町を一つお菓子の町にするくらいなので、相当なものだ。そんなメリルが、ビュレットの町のシンボルとも言える観覧車を破壊されたとあっては、冷静ではいられない。その表情は見る見るうちに鬼のように変わっていった。
「まだ残党がいたんですね。今行きます!」
「え? あ、ちょっと!」
メリルはリアの言葉も無視して、観覧車のアトラクションのほうへと走っていってしまった。取り残されたリアはどうすることも出来ず、しばしば考える。
「……やっぱり、私も行くしかないかぁ」
メリルに少し遅れて、リアも観覧車のアトラクションのほうへと走っていった。残されたシャドウ・スコーピオンの男たちは、ピクリとも動かなかった。
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