第27話 二人の『勇者』

「メリル、助けに来てくれたのね」



 リアは涙目になりながらメリルを見つめた。


 リアとメリルは同じ時期に勇者候補として選ばれた。だが、二人の進む道は対照的だった。リアはいつまで経っても勇者候補の底辺としてしか扱われず、重要な任務にも就けなかった。


 だが、メリルは訓練のころからその頭角を現し、任務でも抜群の功績を残していた。もっとも真の『勇者』に近い存在。それが勇者メリルだった。



「まあ、さすがに私の町が襲われていたら、助けないわけにもいかないですからね」


「私の、町……?」


「知らなかったのですか? ここ、ビュレットの町は私が王様からいただいた町なのですよ。ちょっと改造もしましたけどね」


「ええ~!」



 知らなかった。確かに、所々少女趣味が散見されてはいたが、まさか自分の同僚であるメリルの町であるとは思わなかった。リアは目を見開いてメリルを凝視していた。



「今はそんなことで驚いている場合ではありません。敵は、まだいますよ」


「そ、そうだった」



 リアとメリルは背中合わせになり、互いに剣を構えた。シャドウ・スコーピオンの男たちも、新たに現れた敵に警戒心を強くした。


 一触即発の空気の中、リアが言葉を発する。



「あ、ちょっと待って」



 その間の抜けた言い方に、周りの皆は毒気を抜かれた。



「な、何ですか。こんな緊張した場面で」


「メリルの持っている剣、聖剣レグルスじゃない!? 何で、何でメリルが聖剣レグルスを持っているの!? しかも、万全の状態で!」


「今その話題を振りますか!? 戦闘中ですよ!?」


「え、だって気になるし……」


「この状況を打破したら、ゆっくりと教えますから。今は目の前のことに集中してください」


「わかったわ」



 リアは今度こそ素直に剣を構えた。待たされたシャドウ・スコーピオンの男たちとしてはようやくか、という思いだっただろう。



「一、二の、三で飛び出しますよ」


「オーケー」


「一、二の……さ」


「あ、ちょっと待って」



 再びの「待った」。これにはメリルだけではなく、シャドウ・スコーピオンの男たちもつんのめった。



「何ですか、今度は!」


「もしかして、町の人たちをすぐに避難させたのもメリルなの? 私が来たときには、もうこいつらしかいなかったんだけど」


「そうですけど、それ、今訊く必要ありますか?」


「え、だって気になるし……」


「それもこれも全部終わってから話しますから、今は目の前のことに集中してください!」


「わ、わかったわよ」



 すごい剣幕で顔を近づけてくるメリルに、さすがのリアもたじろいだようだった。


 これでようやくまともに戦闘が出来る。シャドウ・スコーピオンの男たちの手も、自然と力が入った。



「行きますよ。一、二の……」



 リアとメリルの重心が前に移る。そして、次の瞬間。



「三!」


「三!」



 二人は同時に飛び出した。


 そこからは一方的な展開だった。リアもがんばっていたが、それよりもメリルの存在が大きかった。その力は剣を一振りするだけで仮面の男たちをまとめて吹き飛ばす。動きは俊敏で、男たちのナイフはかすりもしなかった。



「な、何だ、こいつは!」


「化け物か!?」



 結局、あれほどいたシャドウ・スコーピオンの男たちは、メリルの活躍と、ちょっとしたリアの援護によって壊滅した。ビュレットの町は、二人の勇者によって救われたのである。

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