第26話 メリル
トラマルとサイゾウが互いの影をぶつかり合わせているとき、リアは錆びた剣でビュレットの町に侵入してきたシャドウ・スコーピオンたちと戦っていた。
「てやぁー!」
リアの剣がシャドウ・スコーピオンの仮面を割る。仮面の割られた男は、お菓子の草むらに倒れこむように沈んでいった。
だが、すぐに次のシャドウ・スコーピオンがリアの目の前に現れる。どこにこれほどの人数が隠れていたのか、ラクラク峠の地下にいたときにはわからなかった。
「さ、さすがにこれはきついかも。でも、町の人たちを救わないといけないし……」
と思ったところでリアは気がついた。おかしい。ビュレットの町が襲われているのに、あの動物のコスプレをしていた町の人々がいないのだ。シャドウ・スコーピオンが襲撃してきたすぐのときには悲鳴などが聞こえたのでいないはずはない。となると、すでに避難したということか。
「……え? これ、別に私戦う必要なかったんじゃない? ただ闇雲に敵の中に突っ込んだだけ?」
どうやらそのようだった。シャドウ・スコーピオンの数はさらに増えていき、いつの間にかリアを何重にも囲んでいた。
「ちょ、ちょっと、かよわい乙女にこんな大人数で挑むなんて、ひどくない!?」
「かよわい乙女はそんな物騒なものを振り回したりしない」
「……ごもっともです」
これなら素直に逃げたほうがよかっただろう。だが、今更考え直しても遅い。リアはシャドウ・スコーピオンに追い詰められ、身動きが取れなくなってしまった。
「うう……。まずい。このままだと、またこいつらに捕まっちゃうわ」
そうしたらまたトラマルは助けてくれるだろうか。いや、トラマルに期待しすぎるのは問題だろう。リアは何とか突破口を開こうと、シャドウ・スコーピオンの男たちを睨みまわした。
そのリアの態度に刺激されたのか、シャドウ。スコーピオンの男たちは互いに頷きあい、一斉にリアに飛び掛った。
「や、やっぱり無理~! トラマル、助けて~!」
その瞬間だった。誰かがリアの目の前に躍り出てた。手には七色に光り輝く剣が握られている。
「だ、誰!?」
目の前に現れた人物はリアの問いに答えることもなく、剣を振るった。その一撃だけで、周りを取り囲んでいたシャドウ・スコーピオンの男たちが吹き飛んだ。
「随分と無様な姿を見せますね。リアさん」
「え、その声……」
金色の長髪。碧い瞳。瞳の色と同じ紺碧の鎧を身にまとった少女だった。その少女を、リアは知っている。
「メリル!」
「久しぶりですね、『勇者』リア様」
随分と嫌味っぽく言うその姿は、自信と気品に満ち溢れていた。この少女こそが、レオ王国が誇る勇者候補の筆頭、メリルだった。
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